それから目を覚ましたのは、どうやらあの夜からもう一つ夜を通り越した次の朝のようだった
丸1日も寝ていたなんて驚きだ
でもすぐには起き上がれなくて
どうやって起き上がろうかとベッドの中でもがいていたら
部屋に入ってきたラビに笑われた
Spinning Dance ---12
「ごめんねラビ、ありがとう。」
「どーいたしまして!」
結局ラビに手伝ってもらって上半身だけ起こした
ここは村の診療所らしい
しかも豪勢に一人部屋だ
しっかり治療してもらって、丸1日たっぷり寝たおかげで大分体は楽だ
(でもやっぱり動かせないのはなぜ・・・)
「私もまだまだだな・・・師匠に怒られちゃう。」
「クロス・マリアンってさぁ、厳しいんか?」
「そうなんじゃない?教団に行くまで1ヶ月の間、ビシバシ扱かれたから・・・。」
「よくもついていけたなぁ・・・って、1ヶ月!?短くねーの??」
「・・・うん、短いかな。」
「なんで?」
「まぁ、いろいろあるんだよ、師匠にも。」
アハハと笑う
それを椅子に座ってすぐ傍で見ているラビ
ブックマンは探索部隊の人たちと事後処理をしてくれているらしい
残された村の人たちには全部ではないが真実を話した
子供達は村外れの男とその仲間によって殺された、と
AKUMAになってしまった親は昨日の騒ぎに巻き込まれたということになっていた
まぁ、AKUMAとの戦いのせいで大きな爆発が何度も起きていたので疑われることはなかったらしい
ちなみに、誘拐の手口はAKUMAの能力だった
あの透明になる力で家の壁をすり抜け、子供ごと隠してログハウスの地下に運んだらしい
今回の事件にイノセンスは無関係だそうだ
「・・・あの館の主人・・・」
ふとは部屋の窓からも見える大きな家を見据えた
「知ってるよね、犯人が私のお父さんだって・・・」
笑顔を引っ込めて無表情にそう言うと、ラビはあぁ、と小さく頷いた
「でも、それを見つけ出したのがだって事も知ってる。」
「・・・」
「あのオヤジさん、怒ってはなかったさ。むしろ被害が拡大しなくてすんでよかったってさ。」
「でも・・・」
「村の奴らにバラすなんてこともしてない。が悪いって思ってない。」
「・・・いいのかな。」
「いいって言ってんだ、いいんだよ。」
窓から目を離しラビを見つめると、ラビは笑っての頭を撫でた
「・・・ラビ、あの・・・」
「聞いてやるから言えよ。」
頭を撫でられる感触がくすぐったい
ラビが聞いてくれるという優しさにもくすぐったさを覚える
丸1日経とうがなんだろうが、やっぱり心の中にはモヤモヤとしたものが在り続けているのだ
「・・・いい?」
「当たり前。」
「・・・私、ね。」
「・・・うん。」
そのままラビの目を逸らさずに見つめ、は口を開いた
ラビも目を逸らさないでいてくれた
「小さい頃は親と暮らしてたんだけど、6歳の時に捨てられちゃったの。
2人はお互いを本当に愛してたんだけど、私の事は愛してくれなかったんだぁ。
でもその後すぐに、事情を聞いた母方のおばあちゃんが私をこの近くの村に連れてきてくれたの。
おばあちゃんはすごく優しくて、でも時には厳しくて、でも愛情は本物で、ね。
私・・・すごくすごく幸せだったの。おばあちゃんが大好きで、ずっとずっと幸せに暮らしてたの。」
「・・・うん。」
「・・・その間、私は親のことは思い出さなかったの。
思い出したくもなかったし、きっと私の中でないものになってた、ううん、ないものにしてた。」
は手を伸ばし、ラビの服の裾をキュッと掴んだ
ラビはそれを振り払うことなく耳を傾ける
「でも、でもね、昨日再会して戦っている間に、思い出しちゃったの。
私は親から酷い目にあって捨てられたんだって。
・・・そしたら悲しくなって、すごくすごく怒りが湧いてきたの・・・」
そこまで言って、はラビから目線を外し俯いた
「・・・それは、きっと・・・私が愛されてなかったって実感したから。
口では子供達のことで怒っていたように言っちゃったけど、そんなの嘘。
私、そんな良い人じゃないの。
私のことを考えて・・・私がやっぱり不幸なんだって思えたから・・・私のために悲しんで、怒っただけだった。」
「・・・。」
「せっかく、おばあちゃんのとこで暮らして、忘れたのに。」
「」
「おばあちゃんがいなくなってしまったけど、
それでも師匠に出会って教団にいって、ちゃんと忘れていたのに。」
「」
「私・・・それでもやっぱり、忘れちゃいけなかったんだよ!
忘れて生きてちゃいけなかったんだ!!」
「!!」
ラビの言葉にハッとしたは顔を上げた
服の裾を掴んでいるの手に、ラビの手が乗せられる
「は大丈夫さ。」
「・・・ラビ」
「そりゃ、いやな思いしちまったけど、それでも自分で決着つけたじゃんか。
それって乗り越えたってことだろ?」
「・・・そう、かなぁ?」
「そうだよ。だからはもう大丈夫さ。」
そういってラビは笑ってくれた
乗り越えたんだろうか・・・本当に
思い出して、嫌な思いをして、親をこの手で破壊して・・・
「それって、乗り越えたってことなのかなぁ?」
「・・・俺、そういうのよくわかんないけど・・・はそれでも、他の奴らに愛されてるし。」
「本当?」
「は知ってんだろ、そのばあちゃんが愛してくれたってことも。
今だって、教団に帰ればみんなちゃんと迎えてくれるさ。」
ラビの言葉で、
の胸の奥に詰まっているモヤモヤはストンと落ちてフッと消えたような気がした
鼻の奥がツンとして、の目頭に涙が溜まる
「昨日は大変だったな。
けどさ、の親のこと忘れちゃいけないなら忘れないで、ちゃんと心に仕舞って、
それで生きてけばいいんじゃね?
それで苦しくなることはもうないさ、だってみんながいるんだし。
これって乗り越えたってことでいいんじゃないの?」
そう言ってニカッと笑ったラビはまたの頭を撫でた
その反動での頬を涙が一筋伝う
冷たい涙が頬を伝う
でも、でも・・・なんだかあったかい
「・・・ラビ」
「んー?」
「ありがとね。」
「どういたしまして。」
そうやって笑ってくれるラビ
その笑顔は、本物だった
親との過去のおかげで
私は人の感情というものに敏感になってしまった
例え隠していたってわかってしまうくらい・・・
それは時に便利で怖いものだった
初めてラビに出会った時
社交辞令とかですらなく
ただただその場しのぎのように嘘の笑顔を貼り付けたラビを拒絶してしまったのもその所為だ
でもね
でもねラビ
「・・・ラビは・・・本当に笑ったことある?」
初めて会った時に言った言葉が蘇る
ねぇラビ
お父さんの家に侵入しようとした時、怯える私を安心させてくれたのは、ラビの本当の笑顔だったんだよ
それからは、ずっと本当の笑顔でいてくれてるんだよ、気づいてた?
それは私を安心させる為なのかはわからない
でも嬉しかった
偽りないその笑顔がすごく嬉しかったんだよ
だから ありがとう
私・・・今ね、心の中がすっごくあったかいよ
コンコン
不意にドアをノックする音がして、2人はハッとしたようにドアに顔を向けた
その時離れた手を名残惜しく思ったは、それでも泣いていたのがバレないように
目をゴシゴシと擦った
ガチャ!
「、起きたか。」
「ブックマン」
そして開かれたドアからブックマンが入ってきた
探索部隊の人たちは軽く会釈をしてくれて、それからまたドアの前に立って中には入ってこなかった
「体の具合はどうじゃ。」
「もう痛くはないの、動かないんだけど・・・ね。」
「全身を殴打しておるからの、倦怠感はしばし抜けんじゃろ。左肩はどうじゃ?」
へ?という顔をしては自分の左肩を軽く回した
ズキン!!!!!
「いっっったい・・・!!!」
「あーあー、無理に動かすなよ。」
「なんでこんなに痛いの!?」
「おぬし、止血をしなかったからの。微出血でも放置すればそれなりに血は流れるものじゃ。」
「うっ・・・」
大したことないと割り切ってほおって置いたのがいけなかったらしい
は自業自得な行為にガクッと項垂れると、隣でラビがケラケラと笑った
それをブックマンが鋭い目線で黙殺すると、に向き直った
「まだ体は動かぬと言った後に悪いが、昼ごろにはここを発つ。」
「はい・・・」
「すまぬ、帰ってすぐにわしとラビはまた任務があるのでな、急ぎたいのじゃ。」
「ううん全然いいよ。自業自得だもん・・・昼までには動けるようにする。」
「無理はするな。」
「わかってる!」
そう意気込むとブックマンはまだ仕事が残っているらしく病室を後にした
「ラビ、ブックマンの仕事手伝わなくていいの?」
「いいの、めんどくせーし。探索部隊もいるし〜。」
「じゃぁ私の方手伝ってくれる?」
「容赦ないけど?」
「よろしくおねがい。」
「へいへい。」
2人は互いを顔を見合わせ、プッと吹き出した
「本当に、ありがとうございました。」
お昼になる頃には体は動くようになった
車椅子を用意しようかという優しい探索部隊の提案は恥ずかしすぎて嫌なので、かなり頑張った
そして村の入り口
見送りに、あの館の主人がやってきた
他の村民は殺された子供たちやその親のお墓作りで忙しいとか
「いえ、こちらもこれが仕事なのでの。」
「そうそう、万事解決でオッケーオッケー。はい、訳して!!」
言葉のわからない2人の変わりにが訳して伝える
こっちはまだ気まずいというのに、なんでこんな役回りなんだ・・・
「こちらも仕事ですので、解決出来てよかった、だそうです。」
「そうですか。ですが、お礼を述べずにはいられませんから。」
「・・・あの。」
「あなたは何も悪くありませんよ。」
「!!!」
主人はに向かってニコリと微笑んだ
その笑顔に裏に、憎しみなんてものもない
「あなたのおかげで、もう被害が出ることはありません。」
「でも・・・」
「私は父から何度かエリシアさんの事を聞いたことがあります。
村で一番といっていい程素晴らしい方だった、と。」
「・・・はい、おばあちゃんは素敵な人です。」
主人からのお褒めの言葉に、は自分のことのように微笑んだ
「ええ、ですから、そんな素敵な方のお孫さんに会えてよかった。」
「・・・ありがとうございます。きっとおばあちゃんも天国で喜んでます。」
そうが言えば、主人はニッコリと笑ったまま頷き手を差し出した
その手をはしっかりと取り、固く握手した
「では、また。」
達は軽く会釈をすると馬車に乗り込んだ
馬車が動き出しても主人は丁寧に手を振り続けてくれて
も見えなくなるまでずっと手を振り続けた
「・・・疲れた。」
「お疲れ!」
窓から突き出していた体を引っ込め椅子にドサッと座る
その向かいでラビはケラケラと笑っている
「このまま教団にみんなで帰るの?」
「あぁ。今度のわしらの任務先はポルトガルじゃ。
経路から見ても一旦教団に寄った方が早い、それにしばし用事もあるのでの。」
「ジジィ、用って何さ?」
「お前には関係ない。」
「はぁっ!?俺っちこれでもブックマンなんだけど!」
「お前みたいなジュクジュクの未熟者にはまだ早いということだ。」
「ひでーーー!!!」
目の前で繰り広げられる戯れにはクスクスと笑った
そしてふと窓の外に目を移す
(結局おばあちゃんのお墓には行けない、か・・・当たり前だよね。)
出来ることならばもう一度行きたかったが、教団に行く前に師匠に無理を言って一度お墓参りしたし
それに今はみんながいる・・・だから大丈夫だ
は外に広がる青い空と緑色の草原にフワリと笑いかけた
それを見たラビもいつしか笑っていた
--------------------------------------------------
まだまだ私も未熟者ですね。
もっと上手く表現出来る能力がほしい。
とりま、一章はこれにて完結!(いえーい)
2009 02 20
Back/Top/Next