私の両親は、お互いをすごくすごく愛していた
夫婦円満なんて、この人達のためにある言葉だった
でも、その愛の中に私は入れなかった
入れてくれなかった
なのに私の家は、近所では有名なくらい仲の良い家族ということになっていた
外面を気にする両親は、なにを思っていたのか周りからは評判のいい家庭にさせたかったみたいだった
外では手を繋いでくれたけど、家に入れば振り払われ
本当にいい子なのと近所の人に言いふらしては、家の中では出来損ないと罵った
でも、そんな矛盾しかない家庭が壊れるのはあっという間だった
それに耐えられなくなったのだ・・・
私じゃなく・・・両親が
あの日・・・
父は私に生まれてこなければ良かったのにと言って殴った
生んだのはあなたの大切な人よと言えばまた殴った
母はそれを見ているだけだった
あなたには父がいればいいんだもんね
そんな事があって
それはあっという間に近所に知れ渡ってしまって
家庭円満だと思っていたら、実は子供を虐待していたという噂があっという間に広がって
両親はそれがバレてしまってはもうどうでもいいと諦めたのか、
その後すぐに私を捨てた
私が・・・まだ6歳の時
Spinning Dance ---11
は体中に痛みが走るのを我慢して、もとの色に戻った虹霞を振り上げ鎌鼬を繰り出した
そうすれば傷こそつかないだろうがAKUMAは後ろへと吹き飛んだ
そしてその隙にサッと立ち上がる
その顔は、怒りに歪んでいた
嫌なものを思い出してしまったから・・・
私の人生を変えた、あの日の出来事
「っ、絶対許さない・・・!
この子達の親は、本当にこの子達を愛しているのに・・・
それに付け入ってAKUMAを増やすなんて・・・
あなた達だけは、絶対に許さない!!!!!」
それは、憐れなこの子達のため?
愛されなかった私のため?
それは、きっと---
「・・・エクソシストは、コロス。」
AKUMAはようやくAKUMA本来に戻ったようにそう呟くと、また拳銃を片手に突撃してくる
だが、も意を決したように鋭く目線をAKUMAに突き刺す
「虹舞曲・赤!!」
は再び虹霞を赤色に染め替え剣にすると、AKUMAの発砲する弾丸を弾きながら間合いを詰めていく
すると、もう間近だというのにAKUMAは一瞬にして消えた
「え!?・・・きゃぁっ!!!」
その事にが一瞬動きを止めると、消えたすぐ傍から弾丸が飛んできて左肩を軽く抉った
「うっ、これは・・・あの時と同じ。」
幸い出血もそんなに多くないし利き手ではないので特に止血もせずほおっておくことにした
それよりもと、気を張り詰める
つい先ほど、街中で出くわしたときに女の人を連れ去ろうとしていた時と同じだ
あのAKUMAは、透明になれる特殊能力でもあるのだろう・・・
パンッ!!
「っ!」
今度は後ろから発砲してきたが、は間一髪でそれを避けた
その後も様々な角度から弾丸が飛んでくるが、はそれを次々と避けながらAKUMAを探す
「・・・そこ!」
そして、ある一点に向かって剣を振り上げた
ガシャン!
再びの金属音とともに見えない何かとの剣がぶつかった
それに手ごたえを感じたはサッと剣を引くと
「鎌鼬!!」
色を元に戻し、再び虹霞を振り上げた
その鎌鼬は何かにぶつかったように一瞬怯むもものすごい勢いで天井へと駆け上がり
パキパキパキッ・・・ドン!!!
天井のコンクリートをあっという間に吹き飛ばし、そのまま家の屋根も吹き飛ばした
その粉々に吹き飛ぶコンクリートや屋根の木材とともに
今まで見えなかったAKUMAもふっと姿を現し宙に飛んだ
「火判!!」
小太りの男を追ったラビとブックマンも外でAKUMAと応戦していた
追いかけた男はレベル2のAKUMAで、他にもレベル1やレベル2が何体かいる
それはおそらく、殺された子供の魂とその親の皮で出来たものだ
「ジジィ、そっち終わった?」
「もうすぐ終わる。」
だがそれも容赦なく破壊していく2人の前には
いつしかあの小太りの男---大きな牛のような形をしたAKUMA---しか残っていなかった
「く、くそっ・・・」
まさかこんなにあっけなく倒されるとは思っていなかったのか
残されたそのAKUMAは2人に怯え逃げるように森の方へと駆け出した
だが
「天針」
ブックマンの放った針が瞬く間にAKUMAの体を突き刺していく
「あああああぁぁぁぁあ!」
AKUMAは崩れるようにその場に倒れる
「終わったの。」
「だな。」
ブックマンとラビが見据える中、AKUMAは苦し紛れに2人を見据える
「くっそ・・・エクソシスト・・・お前ら、ゆるさねー。」
「死に際になーに言っても怖くねーっての。」
「はっ・・・くっ・・そ・・・」
ドン!!
そう言い捨てAKUMAは爆発した
「もう村のAKUMAはいないと見てよさそーだな。
あと残ってるAKUMAって・・・の父親?」
「・・・」
ラビとブックマンが家の方を振り返ると
ドン!!!
「なっ・・・!」
けたたましい音とともに家の屋根が吹っ飛び
甲冑に身を包んだAKUMAが宙を舞いガシャンと地面に落ちてきた
そしてその穴の開いた屋根からもサッと跳び上がってくる
「!!」
驚く2人の前に着地したは
ラビに名を呼ばれても振り向くことなく、地面に倒れるAKUMAに向かって駆け出した
「?」
「様子がおかしいの。」
唖然とするラビの横で、ブックマンはボソリと呟いた
だがはそれすらも聞こえず走りこむ
AKUMAもギシギシと起き上がり、手にしっかりと持ったままの拳銃を再びに向ける
バン!と弾が出てくる音がしても、はそれを赤一色に染めた剣で弾いていく
そして間合いを詰め剣を振り上げるが、それを見越したAKUMAはサッとそれを避けて再び発砲してくる
だがそれもはきっちりと弾き返す
「・・・どうかしたんか?」
「相手は父親だ、無理もない。」
「・・・そういや、捨てられたって言ってた。」
「・・・・・・」
「それから会ってなかったってさ。」
「・・・・・・」
「、すげー怒ってる。」
「・・・・・・・・・あぁ。」
「はぁっ!」
は拳銃と甲冑で再三剣を弾くAKUMAに、ありったけの力を込めて斬りかかった
「エクソシスト・・・」
その反動で拳銃は吹き飛び、AKUMAは両手をクロスしてそれを防ごうとする
尚も呟きながら・・・
力比べのようにお互いが踏ん張る
ギシギシと金属音を響かせながらはAKUMAを見据える
「ねぇ。」
はぐっと力を込めて、不意に話しかけた
ぐぐぐぐぐ・・・
少しずつAKUMAが後退していく
「エクソシスト・・・コロス。」
「ねぇ、子供たちを襲って、親を騙して・・・私がいた頃と同じだと思わない?」
「エクソ・・・シスト・・・」
「まぁ、この作戦、あなたが考えたわけじゃなさそうだけど・・・」
「エクソシス・・・ト・・・」
尚もエクソシストとだけ呟きながら、それでも少しずつ力負けしているように後ろへさがるAKUMA
それを、悲痛そうに顔を歪め、今にも泣きそうなが見据える
「ねぇ、お父さん・・・お母さん・・・」
少しだけ左の肩が痛い
殴られた時に打撲した部分が体中で悲鳴をあげる
「エク・・・ソ・・・シスト・・・」
「違うよ。」
でもそれ以上に、体の真ん中の、奥のほうが痛い
「エクソシスト・・・エクソシストエクソシストエクソシスト・・・!!!」
「違う、私は!あなた達の娘よ!!」
「エクソシスト・・・エクソシストは・・・殺す!!!!!!」
「っ・・・よ!!!!」
は一瞬剣を引くと、ガッと斬りかかった
すると今まで傷一つつかなかった甲冑に傷が入る
その反動でAKUMAは後ろへ吹き飛ぶ
「っ・・・さようなら、よ・・今度こそ・・・!!!」
不意にの頬を、一筋の涙が伝った
だがそれを感じることもなく、は虹霞を振り上げた
「・・・鎌鼬!!!!」
その、屋根を吹き飛ばした時よりもまた更に大きい一筋の風は
容赦することなくAKUMAへと突進する
「エクソシスト・・・」
AKUMAがそう呟いたと思うと、そのまま風に吹き飛ばされ、バキン!という音とともに甲冑は割れた
中身なんてものはなく、ただただ甲冑は破壊され、夜の森の空に舞い散った
そうして・・・の両親は・・・AKUMAは・・・散った
一瞬だけ、父親と母親の顔が見えた気がした
けれど、そんなものは、所詮幻だ・・・
そう頭の中で呟いたは、散っていく金属の欠片が月に照らされ光り輝くのをただ呆然と見上げた
そして、ガクンと地面に膝をついた
戦っていた時以上に痛みが体中を駆け巡る
AKUMAと戦ったからだよね・・・そう思いながらもは
一番痛みが走った体の真ん中に手を置いた
ズキズキする・・・体の奥が・・・
ヒュウと風が吹いて、は頬に冷たいものを感じてもう一つの手をそこに添えた
・・・冷たい・・・水?
「」
不意に名前を呼ばれ、は顔を上げた
そこにはラビがしゃがんでこちらを見ていた
「終わったさ。」
そういってラビは笑った
「・・・そっか。」
終わった
その言葉には安堵したように頬を緩め、そして目の前にいるラビの元へ倒れこんだ
そこまででの意識はプッツリと途切れた
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予想以上に長くなってしまったけど、
一章ももうすぐで終わりですね。
2009 03 20
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