「え、ぎんって・・・お前・・・」




 部屋に中途半端に入っている銀時は、そこから一歩も動けない。

























「・・・銀色・・・」

 だが少女は、すっと指差した。





「は?銀色??」


「・・・髪の毛・・・」



「あ?あ、あぁ!髪ね、髪の色ね!!」


 その少女が指差したのは、銀時の頭、銀髪だった。
 それに気づいた銀時はまるで金縛りから解かれたかのように、
 つんのめるようにして部屋に入ってきた。
 そしてそのまま少女の前にくると、目線が合うように屈んだ。



 そして、少女の顔をまじまじと見る。
 少女は無表情のまま、特に驚くともせず、ただジーッと銀時の髪を見つめていた。










「・・・なぁ。」


 やがて銀時が口を開く。





「・・・お前、そういえば名前聞いてなかったんだけど・・・?」


「・・・・・・です。」












 弐 ---ぎん---












「・・・あの、貴方は・・・?」


 銀時は依然の顔をジーッと見ている。
 すると、それまで銀時の髪を見ていたの目線が、すっと銀時の目に移った。



「・・・あぁ、わりーな。
 俺は・・・坂田銀時っていうんだ。」



「・・・名前も、ぎん?」


 あぁ、というと銀時はそのままどっかりと腰を下ろした。
 はずっと正座をしたまま、その様子もただジーッと見ていた。





「万屋銀さんだ、よろしくな。
 皆は、銀さんだとか銀ちゃんだとか適当に呼んでる。」



「銀。」



「え?」




「・・・じゃぁ、銀。」


 どうやら自分は「銀」と呼ぶ。
 と言っているらしい。
 銀時は心底驚いた顔をした後、優しそうに笑った。






「そう呼んでくれるやつは滅多にいないんだ、嬉しいねー。」



 そう言うと、沈黙が続いた。
 が言い返してこないのだ。







「・・・っあれ、なんか言わないのかよ!」


「す、みません・・・どうすればいいか、わからなくて・・・」



 は目の前でコロコロと表情を変える銀時を不思議そうに見ている。








「・・・俺の顔に、なにかついてます?」



「いえ。でも・・・銀の顔、見てて面白い。」




「・・・・・・じゃぁなんで笑わないんだ?」



 さっきからはあまり顔色を変えようとしないのだ。




「・・・・・・よく、わからないんです。」


「なにが?」



「笑う、とか・・・嬉しいって感情。」


 そう言っては俯いた。






「・・・記憶喪失、だっけ。」


「聞いてましたか・・・。」



「一応ね、ここ最近の記憶しかないって聞いたけど?」





 膝に綺麗に並べてある手が、ぎゅっと握り締められた。









「覚えているのは、毎日路地裏で食べ物を漁ったり、
 時には誰かのものを盗んだりして、その日をギリギリで過ごしていたことだけです。
 いつからそんなことをしていたかなんてわかりません。
 日付なんて、数えられなかったし・・・」




「・・・そう、か。」




「だから、危ないことも多々ありました。
 そのせいで、嬉しいとか、楽しいとかって感情、わからないんです。
 知ってるのは・・・」

「憎しみとか、苦しみとか・・・」


 がぐっと黙ると、銀時が代わりに呟いた。
 それを、ただは黙って頷いた。






 しばらく沈黙が流れた。
 すると、ふいにが不思議そうに顔を上げて銀時を見た。


「どうした?」



 さすがにそれは銀時も驚いた。




「・・・不思議、銀にはいっぱい喋った。」


「え?」



「こんなに話したの、初めて。
 銀は話しやすいのかな。」

 は不思議、ともう一度言った。


「・・・そりゃ、嬉しい限りだねー。」

 銀時は驚いた顔で聞いていたが、
 が不思議、と連呼するのを聞いてふっと笑った。







「・・・やっぱり、そうやってみんな、笑うんだね。」



「・・・そうだよ。今から笑え、なんて言わない。
 ゆっくりみんなの優しさとかに触れて、笑えるようになればいいんじゃねーの?」



「・・・沖田さんにも、笑ってほしいって・・・言われたの。」




「沖田くんが?」


 おいおいおいおい、マジなのか?と銀時は思った。




(・・・を、ねぇ・・・)
「じゃぁ、今すぐ笑えないのは仕方ないんだ。だったら・・・」



「・・・??」






























「どうした、総悟?」




「・・・は大丈夫ですかねぃ・・・」





 土方ははぁ?と顔を歪めた。







「テメーこの期に及んでなにそんなこと考えてんだ。集中しろ集中!!」


 土方の怒鳴り声を聞き流して、沖田は考えた。



 と、いうか少し後悔した。
 なにもない、とは思っているが、相手は一癖ある万屋だ。
 如何わしいことはないと思う。
 だが、あのなんとも言えない雰囲気はもしかしたら、
 多少なりとに影響するかもしれない。

 良い方にも、悪い方にも。






「・・・土方さん。」


「あ、なんだ!?」



「とっとと終わらせて帰りまさぁ。」


「あぁ、なんだいきなり?」






「早く帰りたいんでぃ。」


















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最近銀ちゃんにも愛が・・・
う、浮気じゃない、浮気じゃない!!!



 2008 11 28


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