「んで〜?こっちの方はちゃんと用意あるわけー?」
そろそろ夕暮れ。
いよいよ大仕事が目前と迫った真選組の屯所前には、ニヤニヤと笑う男が一人。
「あぁ、報酬はそれなりに用意してあるから、頼んだぞ!」
近藤はニコニコと言った。
その横で、土方は心底嫌そうな顔をしている。
「だ〜ってさー多串くん?」
「・・・なんでテメーなんぞに頼まなきゃなんねーんだよ・・・!!」
頼んだのはそっちでしょー?と嫌味な笑顔で銀時は言った。
「そちらの可愛い沖田くんが留守番よろしくーなんて言うから
銀さん来てあげたんでしょー?」
「ったく総悟のヤロー・・・なんでよりにもよって万屋なんかに・・・」
「まぁまぁ、俺も良い考えだと思うぞ?」
土方はまだ嫌そうな顔を崩さない。
仕方ないとばかりに近藤が前に出た。
「留守番というのもあるんだが、
一番頼みたいことはだな、そのー・・・ある人を見張っててほしいんだよ。」
「見張りーーー?おいおいおいおい、
そういう大事なことまで万屋に頼むってどういう神経してるわけ?
それって最低一人残していくとかしないわけ?
てゆーか何、それって逃げたら俺の責任!?
マジ無理なんですけどーーー!!!」
「ま、待て!そんな大事じゃないんだ。
その、あれだ、まだ完全に疑いが晴れ切れていない子でな、
普通に屯所に置いているっていうのが現在の状況だし、念のため!」
当たり前のように銀時は不満を漏らすが、近藤も慌てて弁解する。
「ほぼ疑いがないも同然なんだ!
まぁ、トシはまだ疑っているんだが、如何せんちょっとわけありでな・・・」
「・・・なんかすっげーメンドクサイ臭いがプンプンするぜ。
一応そのわけを聞かせてもらおうか〜こちとら頼まれてる身なんでね。」
「記憶喪失。」
土方がボソッと言うと、銀時は聞き取れなかったのか、
はぁ?とわざとらしく耳に手をあてた。
「記憶がねーんだよ。
最近の記憶と、名前以外があいつには全くない。」
「・・・なーるほーどねー。
なんかもう本当にマジでメンドクサイってやつか。」
それはこっちの台詞だ、と土方はため息をついた。
「んで、そいつと沖田くんは?」
「今はまだ中にいると思うんだが・・・」
はぁ、とため息をついた銀時は空を見上げた。
もうすぐ日が暮れる。
弐 ---笑って---
「、んじゃぁいってきまさぁ。」
「・・・お気をつけて・・・。」
沖田がの部屋を出ると、
もついて行くように部屋を出てきた。
「・・・見送りなら必要ありやせん。」
「あ、そうですか。」
沖田に止められたはピタリと止まった。
「もう万屋の旦那は着いてる頃でさぁ。
まぁ、知らない人だとは思うが、
俺が安心してここを預けられると見込んだ人でぃ、
ちょっと変わったお人だが、旦那と留守番、頼みましたぜ。」
「はい。」
しっかりと返事をしたにフッと笑いかけて、
沖田は近藤達のところへと向かおうとした。
「あ、の・・・沖田さん!」
が、不意に袖を引っ張られた。
振り返るとすぐそばにがいる。
「・・・死なないで下さい。」
また、月を見上げた時のような泣きそうな顔をしている。
思えば、そういう表情しか見たことがない。
本当に。
「・・・んじゃぁ一つ約束してくだせぃ。」
「なにを、ですか?」
「無事に帰ってきたら、笑ってくだせぃ。」
の目が見開かれた。
だが、ふと俯くだけで、それは肯定なのか否定なのかわからない。
「・・・ま、それも難しいって話だな。
今のは忘れてくだせぃ、ちゃんと無事に帰ってきまさぁ。」
沖田はそういうと歩き出した。
掴んでいる袖は、するりとの指を通り抜けていった。
そしては、追ってこなかった。
「よぉ旦那ー。」
「やぁやぁ沖田くん、お勤めご苦労様ー。」
屯所を出ると、銀時が待っていた。
近藤や土方はすでにパトカーの前に移動していて、他の隊士達となにか話している。
「留守番、頼みやしたぜ。」
「はいはい、見張り兼留守番ね。」
「なんでぃもう聞いたんですかぃ?」
「そこのゴリラに。」
銀時が近藤を指差すと、沖田は可笑しそうに笑った。
「見張りっつったって、特に逃げようなんて考えてるヤツでもねーですし、
いつも通りおとなしく部屋にいるハズでぃ。」
「それも聞いたよー?」
「記憶喪失も?」
「聞いた聞いた。」
「んじゃぁそういうことでぃ。
あれなら顔を合わせなくてもいいですぜぃ?」
そう言い切った沖田を、なにやらニヤニヤと見る銀時。
「・・・なんでぃその気持ち悪い顔は。」
「おもいっきし罵倒するなよ沖田くん。
確かその子、女なんだよなー・・・まさか沖田くん好きなのー?」
やるねーと肘で小突くと、馬鹿か、と言わんばかりに顔を歪めた。
「そんじゃぁ行って来るんで、頼みますぜ。」
「これちょっと喜んで頼まれちゃうかもー!!」
妙にテンションの上がってしまった銀時を置いて、
沖田も近藤達の方へと歩いていった。
それを見送った銀時はさてと、と屯所の中に入った。
ホントたまーにここに来るが、こんなにも静まり返った屯所は初めてだ。
どういう内容で全員出払っているのかは流石に教えてこなかったが、
大方でっかい捕り物があるのだろう。
「だからって一般人に留守番頼むかよ。」
そうボヤキながら歩いていくと、一つの部屋だけに明かりがついていた。
本当に屯所の中で普通に暮らしているのか。
「家もないんだっけか。
あんまし疑ってねーんじゃねーの?」
真選組も物好きだねーと呟き、その部屋の前で止まった。
「どーもー万屋でーす。
まぁあんまり見張りっぽことするわけじゃないけど、
とりあえず顔合わせといきましょうや。」
そう言うと、中からはい、と小さく呟く声を聞き取ったので、
銀時はサッと障子を開けた。
「どーも、万屋の----------」
「・・・」
そして顔を上げて中に入ろうとして、ピタリとその動きが止まった。
部屋の中にいたのは、きっちりと正座をして座っている、一人の少女。
その顔は、無表情。
「・・・・・・ぎん・・・」
その少女は、ただポツリと、そう呟いただけだった。
--------------------------------------------------
うーん、おかしいぞー。
予想外に沖田が上手く動いてくれない。。。
2008 11 24
Back/Top/Next