「山崎の報告によれば、
 今夜開かれるという攘夷派の会合は
 やはり有力者が揃うという情報が入った。
 今のところ最重要人物である桂などの出席は不明だが、
 これは大きなチャンスと言っていい。」










 あれから山崎が調べたところ、
 やはり攘夷派の会合が近々開かれる、というらしい。



「だが問題がいくつかある・・・。」



 そう言った土方は困ったような怒ったような顔をしている。






「一つは、これは恐らく俺達を撒く作戦なんだろうが、
 会合場所が複数あり、尚且つ情報が極端に少なく割り出しづらいということ。
 二つは、つい半月前に攘夷派をしょっぴいた時、
 向こうの予想外の戦力により負傷者が続出、
 回復しきれていないやつらもいるということだ。」






「やつら、それを見越して今回集合をかけたつもりなんだろうか?」

「おそらく、な。」


 近藤が難しそうな顔をしながら言うと、
 土方ははぁ、とため息を漏らした。




「どうする、近藤さん。」






 土方が改めて近藤に向き直って聞いた。
 近藤はしばらく目を瞑ってじっと何かを考えている。



 そして、カッと目を見開いた。

「確かに戦局はこちらが不利になるだろう。
 だが、このチャンスを逃すわけにはいかないからな!
 博打になるかもしれないが、山崎の情報を信じて、奇襲をかける!!」


 そう勢いよく言うと、前にそろっている各隊の隊長達が
 一斉に雄たけびをあげた。








 弐 ---信じること---



















「近藤さん。」


「なんだ、総悟?」



 朝のミーティングも終わり、各隊の隊長達はそれぞれ持ち場へと戻った。
 今、この部屋には近藤、土方、沖田しかいない。

「今夜が一人になっちまいまさぁ。」

「あー、そこをどうするかだよなぁ〜・・・。」




 あの後決まったのは、
 無数にある会合場所に均等に隊を配置、
 前回負傷者を出した隊は残っている者達で町の見廻りとなった。

 つまり、今夜は屯所に人がいないことになる。





「流石に女の子をこんな大きなところに一人で残すのは気が引ける・・・」


「別にいいじゃねーか。
 ここに来る前は一人だったんだからよぉ。」


 近藤がそのことについて考えていると、
 またも土方が苦言を呈した。






「だからトシ、その言い方はよくないって言ってるだろうが!」

「じゃどうするんだよ。」


 はっきり言って、土方にとっては今はどうでもいい。
 疑いを晴らしたわけでは毛頭ないが、
 今はそれよりも大事な仕事が今夜に差し迫っているのだ。



「まぁ、そこはどうにかするしかないでしょーが。
 俺に良い考えがありまさぁ。」

 沖田は肩肘をついて寝転がりながらそう言った。


「・・・全く信用ならねー。」

「なんでですかぃ?」



「そうやって馬鹿にしたような態度で言うからだろうが!!!」

 土方は盛大なツッコミ(怒鳴り声)を入れた。
 が、沖田は動じず。





「近藤さん、こりゃーあの方に頼みましょうや。」


 なんてことをなんとも呑気に言う。



「「・・・あの方?」」

























 ガラッ



「おーぅーなにしてやがるんでぃ。」





「・・・おはようございます。」





 沖田が勢いよく入っていくと、
 は相変わらず正座をしているだけ。


「そんな毎日正座してどーすんでさぁ、座禅の訓練でもしてんのかぃ?」


「・・・なにも、することが、ないので・・・」

 沖田はそんなの前にどかっと座った。



「確かにそりゃーそうだなぁ。」

「はい・・・それに、なにもしないで一日過ごすの・・・得意ですし。」




「そんな寂しいこと言わないでくだせぇ。」


 そういうと、はかすかに目を見開いて驚いた。
 そして小さくすいません、と言った。


「そういう時はありがとうって言うもんでさぁ。」


「・・・すいません、よくわからなくて・・・」



 それから、沈黙が流れてしまった。




 沖田が監視という名目でさらに頻繁にここにくるようになってから数日。
 は少し感情を表に出すようになったが、
 それは本当にかすかなことで、
 まして笑ったり楽しそうにするなどといったものはまだ皆無だった。


「・・・あ、の、沖田さん。」



「なんですかぃ?」


「・・・今日は、なにかあるんですか?」

「それと言うと?」

「外で、皆さんがあわただしいので。」


 確かに今日はいつもより皆いきり立っていた。




「あぁ、そのことなんですがねぃ。」

「・・・はい。」


「今夜、攘夷派の会合に突撃するんでさぁ。」


 そう言うと、は少し黙った。







「・・・気になりやすかぃ?」



「・・・・・・それ、は、私を攘夷派の手先だと疑っているから、聞くんですか?」

 そう言ったは、まだ無表情だった。



「・・・そう思う節があるんですかぃ?」

 沖田が改めて聞いても、は黙ったままだった。




「・・・違うなら、違うとはっきり言いなせぃ。
 じゃねーと土方の野郎に喰われちまいますぜ?」

「・・・土方さんは、やっぱり疑ってるんですね。」


「見ての通りでさぁ。まぁ、それがあの人の性格なんでねぃ。」



「・・・近藤さんも?
 ・・・・・・沖田さん、も?」

「近藤さんは元から疑ってなんかいませんぜ、それもあの人の性格なんでさぁ。」


 沖田がそう言うと、はまた黙った。
 それを、沖田はジーッと見ている。

「・・・俺はあんたが違うって言うなら信じますぜ?」

 そして、ゆっくりとそう言った。
 するとがバッと沖田の方を向いた。
 おそらく、初めて見せた素早い動きだ。






「ありがとう、ございます。」


 は軽くお辞儀をした。
 それでも、笑うことはなかった。
 それを見てとった沖田は、代わりのようにフッと笑った。




「それで、話を戻しますが。」


「はい。」




「今夜はその仕事で全員がここを出ることになるんでさぁ。」


「・・・つまり、私は一人で残るのですか?」


「その通り。
 だけど、をここに一人で残しておくわけにはいけねー。」

「そう、ですね。」







「それで、今夜とある人が留守番がてらくることになりやした。」





「とある、人?」














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あれ、予想外。
総悟が優しいぞ。←



 2008 11 19


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