「おい山崎、あいつの様子はどうだ。」
「全くと言っていいほど問題はありませんよ。
宛がわれた部屋でも特になにもしないし、
近藤さんが頼んだら普通に洗濯とかやってくれてるし・・・
一体あの子のどこに問題があるんですか?」
「余計な見解はいい!」
報告書を一通り読み終わった山崎はやれやれ、といった顔。
それがかえって土方をイライラさせる。
をここに住まわせておよそ一週間。
部屋も宛がわれ、常に山崎が監視しているが、
特にこれといって目立つこともせずにひっそりと暮らしている。
他の隊士はまだ馴染んでいないが、
近藤や、特に沖田がよくの元へと通っている。
「ま、まぁ・・・一つ言えるとしたら、
まだ皆に心は開いていないって感じですかね・・・
あの子の目、なにも映ってないみたいで・・・なんか少し怖いですし。」
「・・・それはやっぱりそうなのか。」
その点だけは、土方も気にしていた。
記憶がないからだとは思うが、
それにしてもあの目はなんだ・・・
「よほどのことがあって、記憶がないってこと・・・か。」
弐 ---灯火---
「で、記憶がない部分の奴の尻尾は掴めそうか?」
「それが、さっぱりです。
本人は本当に記憶がないわけですし、
残っているもので一番古い記憶は、
既に路地裏でギリギリの生活だったそうです。」
「んなこと言ったって名前は確かなんだろう?
いろんな省庁の文献から照らし合わせて炙り出せ!」
「はいはい。」
全く人使い荒いんだからー
と、うな垂れる山崎をよそに、土方は煙草を加え火をつけた。
「ところで、今なにしてる?」
「ちゃんですか?さっきは沖田さんと部屋にいましたけど。」
「総悟の野郎・・・サボリの種にしてやがんのか。」
はぁーーーと煙と共にため息を漏らし、土方は立ち上がった。
「お前は引き続き、あいつの監視と身元の調査を続けろ。」
「あ、あのー・・・」
「なんだ!」
そう言って部屋を出ようとしたら、
山崎が何やら言いたげにしている。
「その、明日から俺、任務じゃないですか・・・」
「あ、そうだったけか?」
「そうですよ!しかも副長の命令じゃないですか!
ほら、例の攘夷派の有力者達が近々会合を開くっていう・・・!!」
あぁ、と土方は思い出し、同時に険しい顔をした。
「確か、桂も出る可能性が大きい、ってやつか。」
「はい、それの事前調査に向かうので、明日からちゃんの仕事は出来ないですよ!」
確かに、そちらの方がどう見ても重要事項だ。
今のところはこちらにいるし、下手に動く必要はないだろう。
「わかった。
じゃぁ仕事が終わるまではあいつのことはいい。
調査は止まるが、監視は常に一人くらいはつけていられるだろうからな。」
「だったら俺が監視してまさぁ。」
ガラ、という音とともに、
今まさに土方が出ようとしていた先から沖田が顔を出した。
「なんでテメーがやんだよ、他の下っ端に頼めばいいだろうが!」
「副長ともあろうお方が下っ端なんて、酷い言い方でさぁ。
それに、俺や近藤さんくらいでしょーが、
今のところ話し相手してるのは。」
「監視するのに話す必要はねー。」
そう言うと、沖田はやれやれ、といった顔をした。
ちなみに先程山崎がしたやれやれ、という顔とは違い、
明らかに馬鹿にしたようなやれやれである。
「土方さん、わかってませんねぃ。」
「・・・なにがだ。」
「少しでも話せるような相手といれば、
ひょっとしたらボロが出るかもしれませんぜ。
情緒不安定気味だってのは医者からも言われてることだし、
攘夷派とそこまで関係が深くなく、ただ偵察を命じられただけなら、
秘密を守り抜く必要もないでさぁ。」
そして今度はどーよ、と言いたげな不適な笑みだった。
言ってることはごもっとも。と山崎は心の中で沖田に拍手を送った。
「それが、テメーのサボるための口実ってことぐらいわかってんだよ。」
しかし、さすがは真選組の副長。
ちょっとやそっとでは引き下がらない様子だ。
「これはあんたが命令すればいいことでさぁ。
てーことは、立派な仕事以外のなにものでもないでしょーが。」
しかし、沖田も全く引き下がる様子はない。
「・・・このことは近藤さんと検討する。
今日は任務につけ。」
結局土方が先延ばしにするという結果になってしまった。
沖田は土方にそれ以上なにも言わずに去っていった。
「・・・副長、沖田さんて・・・
なんていうか、ちゃんに懐いてますよね。」
山崎がそういうと、土方は返事のかわりにため息をついた。
「なんかあったんですか?」
「俺が聞きてーよ!!」
土方はそう吐き捨てると、部屋から出て行った。
「おーい、ー!」
沖田はその後、当たり前のようにの部屋に舞い戻っていた。
「・・・あの、仕事に戻るって・・・」
「誰もそんなこと言ってねーでしょう。」
は、相変わらず無表情だった。
確かに沖田や近藤と話をするようにはなったが、
喜怒哀楽というものはまだその表情には表れない。
けれど、沖田はそんなことは気にしていない。
「それより、明日は買い物にでも行きまさぁ。」
「・・・え?」
「そんな代理の着物一枚じゃどうしようもないでしょう。
身の回りのものだって必要だろうし。」
今、は屯所で働いている女中の着物を一枚借りているだけで、
他にはなにもない。
元々なにも持っていないというのもあるが・・・
「・・・で、も・・・私を外に出して、いいんですか?」
「俺が見張り番ってことにすりゃぁいいでしょ。」
この時、先程の結論の通りまだ沖田が監視するとは決まっていない。
それでも結局はその後、
近藤は沖田の案にあっさりと同意したため、
次の日沖田はを町へ連れて行ったとという。
だが、さすがにそれはいけなかったらしく、
後に土方にこっぴどく叱られたことは、いうまでもない。
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おっしゃ、こっからはスラスラ書ける!!
なんだそれって感じだよね・・・
2008 11 16
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