「おめぇ、一体いつまでここにいるつもりだ?」




「・・・・・・」




「いい加減帰りやがれ。ここに居たってどうしようもねーだろうが。」





「・・・帰ったって、あの人は帰ってきません。」





「・・・ここにいても、同じだぞ。」





「あぁ、そうですよね・・・」





























 参 ---眼差し---

















「・・・ほう、こいつか。」





 偉そうにぷかぷかと葉巻を加える松平片栗虎。
 その目線の先には総悟にくっつくように立っているの姿があった。







「おめぇ、名は?」


「・・・です。」


「中々のべっぴんさんじゃねーか、なぁ近藤?」

「え!?あ、あぁ・・・じゃなくて!
 とっつぁん、立ち話もなんだからあっちへ行きましょうよ、ちゃんもまだ万全じゃないんで!!」



 松平にのことがバレてしまったのは最早どうすることも出来ない。
 だがここで話し合いに突入してもらっても困ると慌てて近藤が促す。








「・・・ま、そうだな。お前ら着いて来い〜!」


 それを良しとした松平は皆を促しドカドカと歩き出した。




「と、とっつぁん、お前らって・・・?」


「あぁ?そこの嬢ちゃんも、万屋もだ。」



「「!?」」


 だが歩き出そうとした近藤と土方は驚いたように立ち止まった。



「なんでこいつまで・・・!」

 土方は驚いたようにこいつ---銀時---を指差した。


 当事者のはともかく、万屋まで連れて行く必要はないという目だ。



「あ゛ぁ゛?こいつも知ってるなら話つけねーわけにはいかねぇだろう?」

「だけど・・・」

「それに、そいつは駄目だって言っても着いてくぞぉ。」


 松平はうろたえる土方を茶化すようにそういうと先に歩いて行ってしまった。
 (近藤も慌ててその後を追う。)




 土方がそれを聞いて銀時の方に振り返れば、
 特に何かを表すような顔はせず、ただ無表情に松平の背中を見ていた。

 だがふと目線を逸らすとそのままフッと笑って、


「てなわけで、お許しもらったから行きますかねぇ。」


 と、これまた土方を茶化すように言って歩き出した。





「なっ・・・チッ、おら行くぞ総悟。」

 それを聞いた土方が思わずキレそうになるが、それを何とか自分自身で踏みとどまり、残ったメンツを促し歩き出した。








「・・・、行きますぜ。」



「・・・・・・・・・うん。」



 それに従うように総悟とも手を繋いだまま後を追った。



















 そして残ったのは・・・




「・・・お、俺はどうすれば・・・?」




 やっぱり、山崎だった。(やっぱり言うなーーー!!!)


































「何か食わなくていいのか?」





「・・・平気、です。」






 いつも近藤達が会議をしている広い部屋に来た面々はとりあえず座った。



 松平の左右に近藤と土方がそれぞれ座り、向かいに総悟にくっつくようにが座る。

 銀時は少し離れた部屋の隅にある柱にもたれて座っている。








「報告書はもう読んだからなぁ、細かい話はしなくても大丈夫だぞぉ。」



 ここに来る途中に山崎が近藤や土方に出していた報告書を読んだ松平は、
 どっかりと座り込み新しい葉巻を加えた。



「要するに、記録も記憶もねーから攘夷派との関連も断定出来なくてここに留めてるってこったろ?」


「そうなんだよとっつぁん。」



「おめーはどうなんだ、?」


 松平はそのふてぶてしい顔でを見据えた。
 それにはビクリと肩を跳ね上がらせると、フイッと俯いてしまった。



「・・・?」

 総悟がに呼びかけても、反応しない。





「・・・本人は否定しています。」





 すると、に代わって言ったのはなんと土方だった。

 そのことに驚いた総悟が土方を見るが、土方は目線を合わせなかった。
 松平はそのことには驚かずそうか、と言った。


「じゃぁ聞くが土方、このことから推測されることは?」




「・・・一つは、江戸で産まれながら戸籍に登録される前に捨てられた。
 だがこれじゃぁどうやって育ったのか足取りがあるハズだがそれすらない、
 こいつの記憶はある程度一人でやっていけるところまで育った状態からあるからな。」


「・・・ほぉ。」


「もう一つは、他藩で生まれ育ち江戸に入国した後、なんらかの原因でこいつに関する記録が全て抹消された。
 他藩の情勢はハッキリ言って全て筒抜けじゃないから在り得ないこともないが、
 だが江戸は幕府の直轄地だ、ここにきた経路が抹消されるのはまずないと踏んでいます・・・その幕府が関与してないなら・・・ですが。」




 その土方らしい分析しきった見解に、一同が沈黙した。

 総悟はチラリとを一瞥するが、は前を見据えたように松平達を見ていた。
 先ほどの不可解な行動が気になったが、ここで聞けないと踏んで総悟も黙ることにした。












「べっつに何推測してもわかんないもんはわかんないんだからさ〜・・・
 もう釈放でいいんじゃないの?」



 すると、柱にもたれ事の成り行きを見ていた銀時がそう切り出した。


「馬鹿言うんじゃねー!真選組として、事をほったらかしにするわけにはいかねーんだよ!!」


 だがすぐに土方が反論した。
 それでも銀時は気にしないように天井を仰いだ。



がここに留まってる理由は、攘夷派かもっていう嫌疑からだろう?
 だけどそれを裏付ける記憶も記録もなくて、さらに本人も違うって言ってんだ。
 がここでどう過ごしてたかなんてしらねーけど、ここにいては不審な動きしたわけ?」



「・・・それは、全くといっていいほどないけど・・・」

「近藤さん!」

「だってそうだろうトシ!?」

「・・・」



「それに、釈放した後のの動きが気になるなら、俺が引き取るよ?」


「っ銀・・・」


「言ったろ、居候が一人増えたってこっちは構わねーってよ。」


 銀時の言葉に身を乗り出したをそう宥めると、銀時は松平の方を向き直った。






「これじゃ駄目?」




「・・・駄目だ。」



 だが松平は銀時の提案をあっさりと却下してしまった。
 最もだ、という土方や近藤とは違い、銀時は眉を寄せる。



「お前ら、いつまでにこんな中途半端な扱いさせんだよ。」


「・・・銀・・・」


は黙ってろ。」

「・・・」


 心配そうに銀時に声を掛けようとするを制し、銀時はため息をついた。




「疑われてますって言われてんのに中途半端に屯所の一室に閉じ込めちゃってさぁ、
 牢獄に入れられるよりキツイってわかんねーかな?」

「それはそうだけど・・・」

「そうだけどなんだよ、お前らいくら攘夷派かもしれねーっていう嫌疑だからってやっていいことと悪いことがある。」



「うっ・・・」



 銀時の畳み掛けに、近藤は言葉を詰まらせた。

 だがいつもなら真っ先にキレる土方は黙ってそれを見ていた。











「・・・そんなに納得がいかねーか・・・?」


 すると、もう一人黙って聞いていた松平がふとそんな事を言った。
 言葉を投げかけたのは銀時にだが、目は何故かを見ている。




 も、その目を真っ直ぐ捉えて離そうとはしなかった。








 ただ、沈黙が流れる。















「・・・わかった、こうなりゃサシで話そうじゃないの。」


 そう言うと松平はどっこらせと言いながらおもむろに立ち上がった。
 するとその行動の意図に気づいた銀時も立ち上がった。


「・・・とっつぁん?」

「ちょいとこいつと話してくるから、おめーらは待ってろ。」

「それなら俺達も・・・!」


「いや、俺だけだ。」


 有無を言わせぬ口調でそういうと、松平は銀時を連れて部屋を出て行ってしまった。







「・・・どういうことだ?」

「わからねー・・・とっつぁんは何をしたいんだ?」

「・・・だけどとりあえずは、ここにいるしかねーってこと・・・か・・・」



 その、あまりにも突発的な行動に着いていけない面々は、どうしようもなく部屋に留まることにした。







 そんな中は、何を思っているのかわからない無表情で、それでいて虚ろな目で
 出て行った二人を追うように扉を見つめていた。




















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むつかしい・・・。



 2009 07 31


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