「沖田さん、お医者さんが診ていてくれますから仕事に戻ってください。」






「やだね。」





「やだねって・・・また副長に怒られますよ!?」


「怒らねーだろ、アイツのせいなんだからなぁ。」



「えっ・・・どういう意味ですか?」





「お前に関係ねー、それよりとっとと仕事してこい!!!!」



 そういってまだ文句を言う山崎を無理やり追い出し、総悟はまた部屋の奥へと入っていった。









 はあれから、まるで死んだように眠っている

 丸一日経っているのに、まだ目覚めない





 医者の話によると、何か記憶に関係するものがショックとなり寝込んだんだろうとのこと。








「・・・」


 布団で静かに寝息をたてるを見下ろし、総悟はゆっくりと布団の横に座った。







 記憶が戻ろうとして、それを拒絶したということなのだろうか・・・

 どっちにしろ、に重い負担が圧し掛かってしまったんだろう、土方のせいで。

 そう思うと、腸が煮えくり返ってしまいそうだ。




 総悟があの現場に出くわしたのは、が倒れるほんの一瞬前だ。

 土方が煙草に火を点けて、そしたらその前にいるが倒れこもうとしていて・・・
 総悟は何かと考える前にの元へ駆けつけたのだ。


 だから、土方とが何を話していたのかなんて知らない。

 がこうなってしまった原因が気にならないわけではない。

 だが今は土方に逢いたくないし、そういうことはが話したくて話してくれればいいのだ。




 ・・・ただ、が目覚めてくれるまで、ここにいたかった。





 ・・・それだけだ。
















 参 ---揺らめく---

















「んんっ・・・」


 すると、が僅かに身じろいだ。
 それに目を見開いていると、ゆっくりとの瞼が上がっていく。




「・・・」

 総悟がそれを黙って見守っていると、開かれたの目は虚ろに天井を見上げたまま、止まってしまった。
 何かを考えているのか・・・ボーッと天井を見つめている。







「・・・。」


 そんな中、総悟がゆっくりとを名を呼んだ。
 すると弾けたようにが総悟の方を向いた。



「・・・総悟?」

「やっと起きやがって・・・」


 キョトンとしているの頭をゆっくり撫でる。

 状況が把握出来ていないのか、はキョロキョロと辺りを見回しながら起き上がった。



「・・・ここ、どこ?」

「屯所の医務室でさぁ。」


「・・・医務室?」


「倒れたの、覚えてないんですかぃ?」


 総悟にそう言われ、の体がピクリと震えた。
 どうやらそれは覚えていたらしい。


「・・・どのくらい、寝てた?」

「一日でさぁ。」

「・・・そっか。」


 それを聞いては俯いてしまった。


「・・・。」

「・・・どうして倒れたかは、わからないの。」

 総悟が近づこうとすると、それを制するようには話し出した。



「でも、私、土方さんにどうしたい?って聞かれて、すごく、怖かった・・・」



「・・・」

 総悟はそれを止めずに、黙って聞いた。

「私、私・・・なんか、わからないや。・・・自分のこと。」


 するとはすっと顔を上げた。
 眉間に皺を寄せて、苦しそうな表情で。


 ・・・こんな表情は見たことがなかった。


 そういえば笑った顔を見たことがなかったが、こうした表情も見たことがない。
 は感情はよく出てくるようになっていたが、それでも無表情のままで顔には表れていなかったのだ。





 ・・・何かが引き出されたのだろうか。


「・・・・・・」


 だが、今はそれを喜ぶところじゃない。

「・・・総悟・・・」

 が苦しそうにしているのだ。





 不意に総悟の手が伸びてきた。

 それを黙って見つめているの後頭部を掴むと、そのまま自分の方へと引き寄せた。


「そ、総悟・・・?」


 は顔を総悟の胸元に押しつられ、目を白黒させる。


「・・・大丈夫でさぁ、。」

 そんなに、総悟はゆっくりと語りかける。

「・・・総悟・・・」

「心配すんな、俺がついててやる。」


「・・・うん。」


「だから、そんな顔すんな。」


 切羽詰ったようま声色がわかったのか、は総悟の服を掴みゆっくりと頷いた。

 それだけで、心が満たされるようだった。





 がゆっくりと離れ、総悟の顔を見上げた。

 総悟はを安心させるように笑うと、ゆっくりとその頭を撫でた。


 すると、はくすぐったそうに目を細めた。





「・・・笑ってるみてぇだ。」


「え?」


は、でいればいいんでさぁ。」



「・・・総悟、」










 ドタバタドタバタ!!!!!










 不意にが何かを言おうとすると、外が少し騒がしくなった。


「・・・?」

 はわけがわからず首を傾げているが、総悟は何かを悟ったのかをその場に留めて立ち上がった。








「ですから、俺が怒られちゃいますよ!」

「あぁ?そっちの不祥事だろ、とやかく言われる筋合いはないね。」

「不祥事って・・・ちょっとぉ!!!」



 山崎の制止を振り切って誰かがこちらに向かっているのだ。
 まるでついさっきの総悟とのやり取りのようだが、当の総悟は眉間に皺を寄せたまま障子に手を掛けた。



 ガラッ




「おっ、沖田くんじゃないの。」

「不法侵入で訴えましょうか・・・」

「やだねーちゃんと山崎の了承得てるから。」


「俺許した覚えないですよ!!!」


「何か御用ですか、旦那?」


 総悟は自分の顔が出る分しか開けず、目の前の銀時を睨み上げた。



「道端でバッタリ会った山崎くんにね、が倒れたって聞いたから、お見舞い。」



 それに相対する銀時はとくに気にせずケロリとしている。




「・・・山崎・・・」

「だ、だって・・・!!!」

 次いで山崎を睨めばこっちはあからさまにビクビクするというのに・・・















「・・・銀?」














 すると、総悟の背中に小さな声が届いた。
 布団の上に座ったままのが、来訪者に気づいたのだ。



 その声に反応して総悟が後ろを向くと、その一瞬の隙を見逃さずに銀時は障子を開け放った。





〜、銀さんが遊びに来てやったぞ〜!!」


 呑気な声と一緒に。






「・・・銀。」

 そしては銀時の姿を確認するとパッと立ち上がって部屋の入り口までトタトタと駆け寄ったのだ。
 それだけで、総悟の眉間の皺が更に深くなる。



「元気か?倒れたって聞いてすっ飛んで来ちまった。」

「大丈夫だよ、ごめんなさい・・・心配かけて。」


 間に総悟がいるというのに、銀時の長身で二人は容易に顔を見合わせることが出来てしまう。
 そしてそのままの頭を撫でようとした銀時。

 だが、それは間一髪のところで総悟に払われてしまった。





「・・・沖田く〜ん?」



が穢れまさぁ。」


 総悟が睨みあげると、コワッとわざとらしく肩をビクつかせた。


 は、それを不思議そうに見ている。






「ま、立ち話もなんだから中入らせてくんね?」

「なんでです?」

と話がしたいから。」

「ここは医務室ですぜ、は安静にしなきゃならないんで出直してくだせぇ。」

「出直したら話させてくれる?」

「さぁ、それはその時でしょ?」

「えーそれじゃぁハイそうですかなんて言えないなぁ〜。」

「・・・」

「・・・」


 尚も総悟は睨み、銀時は哀れむような目を向けている。




(こ、これはどうしたらいいんだっ・・・!!!?)

 その二人の後ろで山崎はオロオロするしかなかった。
 肝心のはわけがわからずキョトンとしてるし、他に人はいない。
 だからと言ってここで自分が何か言ってもこの二人は耳を傾けない、絶対に。
 (変な自信でなんか悲しいけど!)




















「おーおーなんだなんだー?この俺様が直々に来てやったってのにこの騒ぎかぁ??」














「え・・・な!?な、な、なんで・・・!?!?」

「あれま。」

「・・・これまた珍しい客が来たもんでさぁ。」



 そんな不穏な空気の場所に、突如として珍客がやってきた。






「あ゛ぁ?この俺がいちゃいけねーのかぁ?」




 その男はふてぶてしくこちらへ歩いてくる。
 ヤクザ顔に大きな葉巻を加え、ギロリと総悟達を睨む。












「ちょ、とっつぁん!!勝手にどっか行かないで下さいよ!!!」


 そこへ、事を聞きつけたのか近藤と土方が大急ぎで走り寄ってくる。






 その声につられ振り返った松平は、その二人を一瞥してハァとため息をついた。


「なんだよ、お前らまで俺がここにいたら駄目ってか?つれないねぇ・・・」


「そういう意味じゃねーでしょうとっつぁん、なんで誰にも言わずにいきなり一人で来たんだよ!」

 追いついた土方が困ったように言うと、
 松平は特に悪びれもせず葉巻を加えた隙間から器用に煙を吐き出した。



「べっつに来たかったから来ただけだぜ?
 それと、最近妙な女を住まわせてるって噂があってなぁ、確かめにきたんだよ。」


 そう言って松平は自分が立っている場所からは見えない医務室の中を見透かすように睨んだ。




「なっ・・・噂って・・・!?」

 真選組はまだ、のことを正式には上に報告していなかった。
 全てにおいてまだ曖昧だったので、どう報告していいのかわからなかったのだ。


 だが、それでも気づけば上に漏れているではないか。


「・・・どうやら本当らしいな、近藤。」

「あっ・・・いや・・・」


 しどろもどろになってしまった近藤の後ろで、土方は小さくため息をついた。




 早めにどうにかしようとは思っていたが、もしかしたらタイムリミットなのかもしれない。



「・・・近藤さん、もう無理だろ。」

「と、トシっ!?」

「とっつぁん、そいつはその中だ。」

 近藤が驚いているのを気にせず土方がそういうと、自然にここにいるメンバーの目線が医務室に注がれる。

 そんな中、総悟だけは土方を真っ直ぐに睨み上げていたが・・・

 土方はそんなことを気にせず中にいるであろうに声をかける。


「・・・おい、悪いが出てきてくれ。」


 昨日とは打って変わって少しやさしめに言う。

 総悟達が入り口でバタバタしているから、起きている事はバレバレであった。




 総悟が後ろを振り返ると、事を全て聞いていたが険しい顔で総悟を見ていた。
 どう考えてもにとって良い雰囲気ではないのだ、少し怖いのかもしれない。

 総悟は優しくに笑いかけると、そっとの手を取った。

 はビクリと肩を震わせると、
 それでもしっかり頷いてゆっくりと障子の向こうにいる人達に見えるように前へ出た。























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当初の予定から外れて銀ちゃん再出演。
いや、もう二度と出ないわけじゃないんだけど、
もうちょい先の予定だった。(だからなんだ←)



 2009 07 12


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