ちゃん、悪いんだがこの洗濯物を畳んでおいてくれないか?」





「はい、わかりました。」



「ホントか!?いやーやっぱりちゃんはいい子だなぁ〜!!!!」












 中庭を歩いていたら、そんな声が聞こえた。


















 参 ---瞳の奥---





















 まさかと思った土方がチラリと声のする方に目を向ければ
 やはりその声の持ち主は近藤、そしてだった。

 に宛がわれた部屋の前で大量の隊士の洗濯物を近藤がバサバサと落としていた。
 (ちゃっかり下着は省いているとこの前近藤さんが言っていた気がする。)
 いくら男と言え、あの落とし方は流石に雑だろう、というかあんな半端ない量を一人に任せてるのか、
 といろいろなボヤキが土方の頭の中に現れては消え、はぁとため息をついた。



 と、同時になんで少しあいつの心配をしているんだと自分を戒めた。







「じゃぁよろしくな!」

「はい、夕方には取りに来ていただけるとありがたいです。」

「もちろんだ、ゆっくりでいいからな!」




 部屋に一人でいるのも手持ち無沙汰だろうと、
 洗濯物など軽い雑用を頼むようになったのはあの部屋を宛がわれて案外すぐのことだった。
 誰からも優しいと言われる近藤の提案であるが、別にこれは咎める気はなかった。
 はっきり言ってどうでもよかったからだ。
 (流石に書類整理を頼むものなら機密事項だし怒っていただろうが。)






「じゃぁな〜!」


 はなっから疑っていない近藤はそれはもういつもの満面の笑みでに手を振って去っていった。
 それと一緒にパタンと閉まった障子で、もうの姿は見えない。













「あれ、そんなところで何してるんだトシ?」



 だが数歩と歩かないところで近藤は中庭に突っ立っている土方に気づき立ち止まった。




「別にどうもありませんぜ。」

「そうか?ちゃんに用があるのかと思ったぞ。」


 近藤のその言葉に土方は鼻で笑った。



「あいつに用なんざあるわけねーでしょう。」

「トシ、これ以上何を疑うんだ?」

「なんの事です?」

「確かにウチの前で倒れるなんて怪しいとは思うが、
 山崎にこの間報告を受けたところ本当に足取りは掴めないみたいだし。」

「だったら尚のこと怪しいでしょう?
 攘夷派なら何をするかわからない。記録にない人間を作ってスパイにするなんてことも。」



 土方がこうして疑うのは真選組としての自覚と覚悟からくるもので。
 それをしっかりと理解している近藤はただただ苦笑する。
 だが、その笑みも消し、一瞬だけ難しい顔になった。


「・・・まぁ、そろそろケリをつけないといけないかもしれないな。」


 土方はそんな近藤の言葉に驚くでもなくただ頷いた。










 もう、時間が解決するとも思えない。


 ならば早急に---





 ガラッ!!


「「!!」」



 二人の間に重い空気が漂っていると、突然近藤の背後にある障子が開き中からが姿を現した。



「近藤さん・・・」


「うわ!ちゃん!?」

「あ、はい・・・話し声が聞こえたのでまだいらっしゃると思って。あの・・・」



 は部屋からは出ずに(出る事を禁止しているから当然だが。)(それでも一度総悟が連れ出したが。)
 近藤に声を掛けると、それと同時に廊下を超えた庭先に土方がいるのに気づき目を見開いた。
 話し声は聞こえてもその内容や話し相手はわかっていなかったのだろう。



「なんだい、ちゃん!」

「あ、はい・・・」


 この部屋にが住むようになって土方は一度もに会いに行くことはなかった。
 だからはかなり久しぶりに見たから驚いたのだろう。



「あの、靴下が一組、片方だけ足りないんです・・・」

「え、ホント!?」

「はい、この靴下・・・」

「あー俺のお気に入りの!!!」


 が差し出した靴下はどうやら近藤のらしく、近藤はそれを引っつかむと急いで洗濯場へと走っていった。
 それはもう、一瞬で。






「・・・・・・」

「・・・・・・」


 そんなわけで、いつの間にか残ってしまった土方と
 さっき以上に重い空気が漂う。
 それに耐えられなくなったのはらしく、は気まずそうに一礼すると急いで部屋に戻ろうとした。


「おい。」


 だがそれを、いつもよりも低めの声の土方が制した。
 流石に聞き流すなんて出来ず、は不安そうな顔で振り返った。



「お前、本当は何者だ?」


 突き刺すような、見透かすような視線がを捕らえて離さない。
 だがも別に目線を逸らすことなく、それでも怯えた表情で土方を見つめる。




「・・・」

「答えられねーのか?」

「答えたら、どうするんですか?」


 意味深な返事に土方の眉がピクリとする。



「私は言ったとおりです。記憶はありません、名前以外何も知りません。
 でも攘夷派とは関係ありません。
 ・・・そう話したら、どうするんですか?」

「どういう意味だ。」


「土方さんは私を疑っているんでしょう?
 だからここにいるんです・・・私の疑いが晴れたら・・・もうここにいる必要はありません。」

「・・・・・・」

「でも、それでもここにいるのは疑われているからでしょう?
 そんな人に私が主張しても、信じてくれるんですか?」



 怯えているにしては、しっかりと言い切った。
 そう思った土方は、それでもその挑発的ともとれる発言に眉間の皺を深くする。



「お前・・・随分と言う様になったじゃねーか。」

 そう言うと、は怯えた表情を引っ込めキョトンとした。






 山崎に言って聞かせたように、こいつは変わった。
 万屋に預けたあの日以来だ。
 それは万屋の手によるものなのか、はたまた毎日入り浸る総悟の手によるものなのかはわからないけれど。
 (自分の勘はこのどちらかだと思っている)
 それでも、こういった表情は出会った当初見たことがなかった。

 何よりもその目が・・・

 光の灯らない虚ろな目が、その瞳が、何かが宿ったように光っている。
 本人は無意識だろうが、笑顔以外の表情はよく表に出ている。



 何がこいつを変えたのか

 それ以上に、以前のこいつの様子は一体どんなことがあったらあぁなるのか





「・・・お前のことは山崎が調べている。」

 不意に、口元が滑るように土方は言った。


「・・・?」


「だがどこを探してもお前の手がかりは見つからない。」

「・・・・・・」

「戸籍も見つからねー、どの藩からも出国・入国書にお前の名が載っているものが出てこない。
 他にも手当たり次第資料を探させているが、それも出てこない。
 無論似たような名前はあってもそれはお前じゃない。」

「・・・・・・」

「こうまでしてお前の手がかりが何一つないものとは思わなかった。
 それはお前も同じのようだな。」


 土方がそう言うと、は驚いた後に静かに頷いた。









「・・・お前は、どうしたい。」


 そう言って土方は煙草を取り出した。



「どう、と言いますと・・・?」

「そのままの意味だ。」


 そしてライターを取り出し火を点ける。


「このまま疑われながらここに居続けるか、さっさと見切りをつけてもらって出て行くか。」




 その言葉に、が戸惑ったのがわかった。
 はっきりと顔に出ていたからだ、ありありと・・・




「・・・どう、して・・・」

 そしてそれは、今にも泣きそうな顔でもあった。
 それが無償に見ていられなくて、土方はついっと顔を逸らした。










「・・・どうして・・・私に決めさせるの・・・」



 だが、その言葉に違和感を感じた土方が顔を戻す。
 するとその目の前で、がフラリと前へ倒れこんでいくのがスローモーションで見える・・・




「っ・・・おい!!!」


 今土方がいるのは庭先。
 どう考えても間に合わないが、それでも土方は駆け寄った。
 思わず付けたばかりの煙草が落ちるが気にしていられない。



「・・・!?」

 だが、土方が追いつく前に、は倒れこまず誰かの腕の中に収まった。






「・・・総悟・・・」

 それは、いつ来たのかわからなかったが、総悟だった。
 総悟は無言でを横抱きにする。
 は、完全に意識を失っていた。



「疑ってるからってやっていいことと悪いことがありまさぁ。」


 そしてそうポツリと呟くと再び無言で歩き出した。


「おい、総悟・・・!!!」

 わけもわからず土方が声を掛けようとしたが、それを総悟が一睨みで黙らせた。

「・・・こんな時まで外出禁止ですか?医務室に連れていくんでさぁ。」

 だからこれ以上は突っかかるな。
 ものすごい剣幕でそう言いたいかのように睨み、今度こそ総悟はを抱えて歩いていった。





 それを止めることが出来なかった土方は、しばらくそこに呆けていたが、

「・・・くそっ!」

 やがて苦虫を噛み潰したように険しい顔で落ちてしまった煙草を踏みつけ消した。































「おーいちゃん!靴下あった・・・って・・・あれ?ちゃん??」



 その数分後にやってきた近藤は、戸が開けっ放しでもぬけの殻状態の部屋に首を捻った。



「・・・トシ、ちゃんは?」

 そしてそのすぐそばの廊下に腰掛け煙草を吸っている土方に目を移した。





「・・・医務室。」

「医務室?ちゃんが?・・・医務室って・・・何が!?!?」

「近藤さん。」

「なんだトシ、どうしたんだ!?」

「時間はねーようですぜ。」

「は!?」









 リミットは、あまりないような気がした

 それは、の悲痛な顔が頭から離れないからなのか・・・---



























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あれ、土方と絡ませたいだけなのに・・・
シ、シリアス・・・・・・
てか、土方の近藤さんに対する話し方がわからない・・・
資料不足orz



 2009 05 11


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