「見つからねーってどういうことだ!!!!!!」








「だ、だって見つからないものは見つからないんですもん!!」






 瞳孔をカッと開いて怒鳴る土方の前で、山崎は思わず縮み上がった。


















「結構危ないとこまで調べたんですけど、
 それでもちゃんらしき人の記録がないんですよ〜!!!」






 真選組総出で攘夷派の会合場所へと突撃したあの夜から早数日。
 ようやく落ち着いたということで山崎は改めての正体を突き止めるべく奔走したが、
 どうやら見つからないらしい。








「戸籍やなんかはもちろん、全部の藩の出国、入国書も見ましたけど、ありません!」




 これ以上どうしろって言うんですか〜!!!
 と文句を言う山崎を一睨みで黙らせた土方は、盛大なため息をついた。






 正直、ここまでの正体を突き止められないとは思ってもみなかったのだ。
 記憶喪失と言えど、人間なのだから必ず親がいるはずだし、ならば戸籍やなんかもあるはずだ。


 路地裏にいたということは親に捨てられたのかもしれないが、それにしたって辻褄が合わない。
 ならば必ずどこかしらにの情報が残っているはずなのだが・・・どうしてもないのだという。
 山崎はこう見えても優秀な監察方だ、信用は十分に出来る。








「・・・確か医者の話によると、記憶がなくなる直前までは別の環境にいたって言ってたな。」


「はい、記憶をなくすほど大きなショックがあったなら、
 その後すぐに環境を変えようとする動きも見られるんじゃないかって・・・まぁ、推測ですけど。」




 珍しい症例だから、医学的に推測するにも難しい。
 思い返せば、最初から悪条件しかない。




「なんで面倒な奴をウチに連れてきたんだ総悟の野郎・・・」










 行き詰まった土方は、ことの発端である総悟を思い返した。
 すると、あの嫌味な笑顔を向ける表情を思い出してしまい、土方はバン!とテーブルを叩き山崎を驚かせた。




















 参 ---変わりゆく---






























「・・・だからと言って、このままここを追い出すことも、居座らせることも出来ねーな。」




「そうですね、一応一般庶民ですから屯所に居続けるというのも・・・」


「そうじゃねー。」




「・・・はい?」




 土方ははぁ、とため息をついた。
 この人はため息しかつかないのだろうかと思う程、たくさんため息をついている。








「最近の屯所の様子見てわかんねーのか、観察方だろ!」


「いやいや、ちゃんの調査が手一杯で呑気に屯所の様子見てられませんよ。
 てゆーかそうしてまでも早急に調べろって言ったの副長だし!!!」




「うるせー!!」


(え、逆ギレ!?!?)






「・・・最近、総悟や近藤さん以外の一般隊士もあいつと喋ってる姿をたまに見る。」


「え、そうなんですか!?」(今度俺も行ってみよう!!)


「あの万屋が来た後だ。ひょっとすると、あいつの知り合いか・・・?」




「違うって言ってませんでした?」


「あいつが正直に言ってるかなんてわかんねーよ。」


 そう言って土方は煙草に火をつけた。




「副長、何もそこまでくると考え過ぎでは?
 ご存知の通り万屋の旦那はちょっと変わったお人ですが、妙に人が懐いたりしちゃう性格でもあります。
 ちゃんも、そんな旦那の雰囲気でちょっと変わったんじゃないですか?」




 山崎が自分の考えを述べると、
 いつもなら自分の見解はいい!と怒る土方が今日だけは黙ってそれを聞いていた。


「・・・副長?」




 山崎が不思議そうに土方を見ると、土方はふぅ、と煙草の煙を吐いた。




「・・・とにかく、そうだとしても、これ以上ここに居座って他の奴らが懐くとまた厄介だ。
 お前は引き続きあいつの身元を調べろ。何かまずくなっても俺がきっちり責任は取る。」


「・・・わかりました。」






 山崎は一礼すると部屋を出て行った。












「・・・考え過ぎだ?」


 山崎が出て行った後、土方はさっき山崎が言った言葉を思い出し自嘲気味に笑った。




「悪いが、それが俺の役目だ。」








































「・・・あ。」




 部屋を出た山崎が歩いていると、ふとある部屋に目を留めた。
 の部屋だ。
 そこでさっき土方が行っていたことを思い出す。






「一般隊士も・・・って、相当だよなぁ。」


 の身元調査のため、山崎はしばらくの姿すら見ていなかった。
 その間に何かいろいろと変化をしているというのだから、どうしても興味をそそられる。


 山崎は何かを決心するとその部屋の前で止まった。






 コンコン!ガラガラ!!














「・・・なんでぃ山崎かよ。」




 部屋の障子をノックして開けると、
 真っ先に目に飛び込んできたのは部屋の真ん中で肩肘をついてねっ転がっている総悟だった。
 肝心のは、その向こうで正座している。


 それを見た山崎はホッとした。
 流石に一人がいるところに今までろくに喋ったことのない自分が行くことには酷く抵抗したが、
 ほぼ100%の確率で彼がここでサボっているだろうと思ったから部屋の障子を叩いたのだ。




「やっぱりいましたね沖田さん、また副長に怒られますよ?」


「なんでぃ、あの野郎の差し金か?たたっ斬るぞ!」


「えーなんでそんなんで斬られなきゃならないんですか、普通に嫌ですよ!!!」




 総悟の悪態に返しをし、ふと奥に座っていると目が合った。
 おそらく(ていうか確実に)ずっと彼女はこっちを見ていたのだろう。






「・・・あ、っと・・・ちゃん?」


「はい。お仕事お疲れさまです、山崎さん。」


「!?」




 その目線が痛くて、だからといって何を話せば良いのかわからなくて困っていると
 (自分から会いにきておいてなんと情けない・・・)
 以外にから気兼ねない言葉がかかった。




「・・・えっと、山崎さん、ですよね?」


「え!?あ、はい!!」


 まさか本人から話しかけてくれるとは思ってもなく、ましてや名前を知っていてくれたなんて・・・!!!






「ちげぇよ、こいつは"影がウスィーノ太郎"って言うんでさぁ。」


「え、なにその突っ込みどころ満載は名前!!違います、山崎です!!!」


「何デタラメぬかしてんだウスィーノ、に失礼だろう!」


「え、ウスィーノが名前ですか?太郎じゃなくて!?」


「なんでぃウスィーノ、認めてんじゃねーか。」


「だから山崎です!!!」




 総悟のなんともめちゃくちゃな振りに必死に突っ込むが、最後は舌打ちをされてしまった。
 ちょっとまってよ沖田さん、舌打ちはないでしょう。
 (俺必死に突っ込みしました!!!)


 と、泣きそうになる俺をやっぱり見ていたちゃんは、


「駄目だよ総悟、山崎さんいじめちゃ。」


 沖田さんの方を向いてそう言った。


















 ・・・ん、"総悟"!?




(え、いつの間に名前で呼び合う仲に!?)(なんでなんで!?!?)(う、羨ましいっ!)




「いじめじゃねーよ、こいつはドMだ、こうされると嬉しいんだよ。」


「いやいや、貴方が単にドSなだけでしょうが!!!!!」




「・・・総悟。」










 ちゃんの表情は相変わらず無表情だった。


 けれど、その声色からは楽しそうにしている事がちゃんとわかる。


 沖田さんのことを名前で呼んでいるっていうのは流石に驚いたが、
 これは副長の言っている意味がわかる気がした。




 確かに少し、少しだけ変わったのだ。




 前のように心を閉ざしている感じは全く見受けられないし、むしろ開いているようだ。


 目も、前のように何も映っていない空虚なものと違ってちゃんと沖田さんや俺のことを映している。


 そして、纏う空気も少し柔らかい。


 これなら一般隊士だって絡むのもわかる。(だってちょっと可愛いし。)










「なんでぃ山崎、考え事すんならここには不要だ、出てけ!」


「なっ・・・!いいじゃないですか少しくらい!!」


「大体なんでテメーはここに来たんだよ。」


「そ、それは・・・だから、あんまりここでサボってると、副長に怒られますよ!って言いたいんです!!」


「それはもう聞いた、なら出てけ!!」


「なぁ、だから・・・!!!」


 あまりに理不尽な言い方に山崎は少しキレそうになるが、押し黙った。
 総悟がニヤニヤと笑っているのだ。




「お前がなんでここに来たかなんてわかってらー。」




「・・・全く。」


 痛い所を突かれてしまったが、一応呆れたように返事をしておく。




(内心ヤバイけど・・・!)←なんでバレてんだと思ってる。








「あ、山崎さん。」


 そんな内心との格闘をしていることなど露知らず、ふいにが山崎の方を向いた。




「は、はい!なんでしょう!!!」




「今から総悟とお茶するんです、一緒にどうですか?」






「・・・!?!?」


 思っても見なかったお誘い!!!?


「は、はい、是非!!!」


、山崎なんかと茶ぁしばいたら病気になるぜ。」


「なんですか、俺もう病原体並みですか!?」


「知ってるじゃねーか。」


「認めてませんから!!!!」






 再び総悟と山崎がギャーギャーと言い争っている間、はお茶を沸かし始めた。


 そういえば、と山崎が言い争いを止めて部屋を見渡すと、
 必要最低限のものしかなかったこの部屋もいろいろと物が増えていた。
 今が使っているポットとかの日用品に加え、お茶菓子もバッチリだ。
 やっぱりあまり外に出る事は許されていないようだから・・・


(沖田さんとか、局長?あ、他の隊士とも仲良くなったんだっけ・・・)




 独ぼっちでポツンと佇んでいたの周りに、少しずつ人が集まっている。
 それは物が増えた部屋と妙に相まっているようだった。








「山崎さん、どうぞ。」




「え、あ、はい!!あぁぁぁありがとうございます!!!」




 にお茶を出され、山崎は慌ててお礼を言うとその前に座った。






「それ飲んだら出てけよ〜。」


「沖田さん、別に俺がいたっていいじゃないですかぁ。」


「よくねぇ。」


「なんで、総悟?」


「だから山崎は
「沖田さん、もう勘弁してください!!!!!」






 やっぱりちゃんは無表情だったけど、楽しそうだった。
 沖田さんもそれを見てよく笑ってる。
 そんな二人を見ながらちゃんのいれてくれた美味しいお茶を啜って、
 ついでに出してくれた羊羹も食べた。


 これは、俺もちゃんが出てっちゃ嫌だなー・・・なんて思ったのは、ここだけの秘密にして。


































 後日、このことがバレて副長にこっぴどく叱られたのは言うまでもない。


 絶対沖田さんの仕業だと思う。


























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山崎とほのぼの絡ませてみた。
そしてバッチリ総悟に邪魔させてみた。
ちょっと過激?・・・そんなことないよ!(笑)



 2009 02 03


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