マンションのオートロックを開けて、エレベーターに乗り込んで、目的の階で降りて、角の部屋を目指す。













 二人で働いて丁度いいぐらいの家賃のマンションに越して三ヶ月。



 つまり、籍を入れて三ヶ月。




 所謂、新婚。






「・・・なに言ってんだろう自分で・・・」



 アハハ・・・と乾いた笑みを浮かべながら部屋に着き、鍵を取り出す。
 鍵穴に差込み右回りに回せば・・・---







「・・・あれ、開いてる・・・?」


 朝、鍵を閉め忘れてしまったのだろうか。


 そう考えれば必然と頭に浮かぶのは嫌な事・・・。



(あ、空き巣とか入ってたらどうしよう!!!)


 急いでドアを開けると、途端に焦げたような臭いが立ち込めてくる。







(が、ガス栓も閉め忘れた!?!?)



 急いで靴を脱ぎ捨てバタバタとキッチンに向かう。

 少し黒い煙が見えなくもない、どうしよう最悪の事態だったら・・・




 ガバッとリビングダイニングに備え付けのキッチンを覗き込むと、









「・・・え?」










「あ、お帰り・・・。」











 そこには黒い煙と睨めっこをする伊作の姿があった。
















「・・・で、結局のところ伊作は何してたの?」




「いやー今日はちょっと早く仕事が終わってね、折角だからが帰ってくるまでに夕飯作ろうかと思って・・・」



「焦がした、と。」





「・・・うん、その通りです。」


 真っ黒になってしまったフライパンをとりあえず流しにぶち込み、
 リビングのソファでガックリと項垂れている伊作の隣に腰掛ける。




「まぁ、伊作はあんまり料理とか得意じゃないもんね。」

「うん・・・無謀だとは思ったんだけど、いっつもに家事押し付けてるしたまには・・・と・・・」

「なに言ってんの、たまに掃除とか洗濯手伝ってくれるじゃない、それで十分だよ!」


 ハァとため息を吐く伊作の頭をポンと叩いたは立ち上がった。



「じゃ、夕飯は私が作るから、伊作はお風呂でも入ってなよ。」


「そうするよ。」


 未だに焦がしたことがショックなのかションボリする伊作に笑いがこみ上げつつ、はパタパタとキッチンへ向かう。






「あ、待って!」



「ん?」



 だがすぐに何かを思い出した伊作がを呼び止めた。



 足を止め振り返るの傍まで駆け寄った伊作は、の腕をやんわりと掴むと自分の方へ引き寄せ---


 チュッ


 ---可愛らしいリップ音とともにの頬にキスをした。





「伊作!?」


「おかえりのチュゥ。」



「何よそれ!な、なんでいきな、りっ!?」




「だって新婚さんだし。」


 驚くとは対照的に、伊作はフワリと幸せそうに笑う。
 そうされれば、もそれ以上は怒れない。




「・・・仙蔵に、また何か吹き込まれたんでしょ・・・」



「あれ、よくわかったね。」




(仙蔵ーーーー!!!!!)




 新婚の先輩として色々と教えてやろう!

 そう伊作に宣言していた仙蔵が脳裏にフラッシュバックする。
 おのれ仙蔵、段々違う方向になってるのもきっとわざとだ・・・







「嫌だった?」


 だがふと伊作にそんなことを言われ、はウッと言葉を詰まらせる。

 そしてしばらく口をパクパクとさせると、途端に頬を赤くして俯く。




「・・・い、やじゃないけど・・・」



 零れるように小さく紡がれた言葉も、二人きりのこの家ではよく響き、
 それを聞き取った伊作は嬉しそうにを抱きしめたのだった。













 そして伊作がお風呂に入っている間に手際よく夕飯を作り、二人して食卓を囲んで食べて、後片付けを伊作も手伝ってくれて・・・





(まぁ、確かに新婚なんだよね・・・)



 つい数時間前に自分で自嘲していた事を振り返り、その後の出来事をざっと思い返したはクスリと笑った。





「どうかしたの、?」

 するとソファに肩を並べて座る伊作が不思議そうに覗き込んできた。



 今はもお風呂から上がり二人でテレビを見ていた。
 が、今のシーンは別段笑えるところではない。



「ううんゴメン、思い出し笑いよ。」


 そういってクスクスと笑うに首を傾げる伊作だが、そのまま腕を伸ばしての肩に掛かっているタオルを取った。




「・・・そういえば知ってる?」



「なにが?」


 そしてを横向きにすると、その後ろからの頭をソッとタオルで拭き始めた。


 いつものことなので、は黙ってそれに甘んじている。





「仙蔵のとこ、赤ちゃん出来たんだって。」




「知ってるよ、仙蔵の奥さんがメールでご報告してきたから。」

 それはもう、文章だけで喜びいっぱいさが直に伝わってくるかのように。



 そういうと伊作はやっぱりねと言った。




「こっちは今日の昼休みに突然仕事場に仙蔵が来たと思ったらずっとその話でさぁ。」



「ああ・・・うんゴメン、すっごい目に浮かぶわその光景・・・」

「でしょ?」


 クスクスと笑う伊作にはハハと乾いた笑みを返した。






「まだ妊娠がわかったばかりだって言うのに、子供は女の子で決まりらしいよ。」


「仙蔵がそう言うと本当になりそうだから恐ろしいよ・・・」


 優しく髪を拭いてくれる伊作にはゆっくりと体を預けた。




「だから出産祝いも是非女の子用で、だってさ。」

 そういって颯爽と自分の仕事場に戻っていったらしい。




「あー・・・あそこからは結婚祝い奮発されちゃったもんね・・・」


「きっとこれを見越してとしか思えないんだけど・・・」


「在り得なくはないよね。うーん・・・何あげればいいかな?」


「なんだろうね、ベビーカーとか?」


「そういうのは親戚が一式揃えちゃうでしょ、ここは女の子用の可愛い服をどっさり買ってあげる!とかは?」



「アハハ、それはもう喜ぶね。」


「例え生まれた子が男の子でもあげちゃいましょ!」

「そうだね、断言したのは仙蔵だから、文句は言えないハズ。」



 クイッと顔を上げると伊作が可笑しそうに笑いながらを見下ろしてきて、二人してプッと吹き出した。






「アハハ、じゃあそれで決定だね。お給料から差し引いておこうか?」

「そうしよう、うんと買ってあげればいいよ。」



 テレビのこともすっかり忘れ二人でケラケラと笑っていると、不意に伊作が笑うのを止めて真剣な顔になった。







「・・・は、赤ちゃんほしい?」





 そういわれ、も笑うのを止めた。
 そして少し困った顔で伊作を見つめる。


「・・・実は、まだいい。」


「そうなの?」


「うん。」


 髪の毛も粗方拭き終わり伊作がタオルを退けるとはパッと伊作の正面に向き直り抱きついた。



「だって、まだ結婚して三ヶ月だし・・・」


 そういってゆっくりと目を瞑り伊作の香りを堪能する。
 伊作は、優しく抱きしめ返してくれた。




「確かにその内、この家に二人ってのに寂しくなるかもしれないけど、それは今じゃないし・・・」



「・・・そっか。」



「折角ずっと一緒にいられるんだから、もうちょっとだけ、二人だけで・・・」




 そういうと、途端に伊作の抱きしめる力が強くなった。





「やっぱりと結婚してよかった。」

「・・・伊作?」


「僕もそう思ってた、もうちょっとを独り占めしたっていいと思わない?」



 何故私に問いかけるんだと笑えば、伊作もまた笑う。




 テレビではお馴染みの司会者がみんなの笑いを取る中、二人は二人だけで笑いあう。









「じゃ、仙蔵にはまだ作らないって言っておこうっと。」



「仙蔵に聞かれたの!?」



「それはもう楽しそうにね、でもこういう返答は待ってないと思うから、どんな顔するか楽しみだなぁ。」



 もぞもぞと身じろぎしてが顔を上げると、悪戯っ子のような笑みを浮かべる伊作がそこにいる。




「・・・フフ、そうだね、結果楽しみにしてる。」




 そういっても笑い、ふと見詰め合ってから、ゆっくりとどちらともなく顔を近づける。










 もうちょっと二人だけ・・・




 お互いにそう思い交わした深い口付けは、酷く甘く感じた。
















 Sweet Sweet...    


(僕ら、結婚しました。)





























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伊作現パロで新婚ネタ・・・でした。
新婚プッシュしすぎました、
しゃしゃった仙蔵がまるで滝y(
砂を吐く甘さって何ですかぁぁぁぁぁあああああ!!
(ゴメン絶対そんなに甘くないゴメン・・・)(ウッウッ)



 2009 10 11


やすし様に献上