「ちょーじ!」



 あまり大きな声を出すと怒られるので小声で声を掛ければ、
 それでもしっかりと届いたのか呼ばれた本人はゆっくりと振り返ってくれた。






「委員会ってまだ終わらない?」


 ゆっくりと長次の傍に歩いていくと、長次はコクリと頷いた。
 図書委員長のおかげで静かな図書室。
 他の委員達は本の整理をしているらしく、後ろの本棚からガサゴソと音がする。




「すまない、。」

「え?」

 そんな後ろの方に気を取られていると、不意に隣で貸し出しカードの整理をしている長次が呟いた。


「約束があったんだが・・・」

「ああ、いいよ別に。委員会活動の方が大事だもんね。」


 本来ならば今日は二人で団子屋に行く予定だったが、急に委員会が入ってしまったのだ。





「・・・まだ終わりそうにない。」

 長次が後ろを気にしながら言う。
 後輩の委員達が一生懸命作業をしている音が響いてくる。


「長次だけ帰るわけにもいかないもんね。」


 優しい委員長だ、と笑えば、長次も心なしか微笑む。

 普段は仏頂面だと機嫌が良くて、笑っていれば機嫌が悪いのだが。
 自分の前では嬉しい時には優しい笑顔を向けてくれているんだと、今更ながら実感する。






(心がほっこりするわ。)





 はそのまま長次の隣に腰を降ろす。


「・・・?」

「今日は団子屋はいいから、ちょっとの間ここにいてもいい?」


 団子屋は諦めなければならないと最初から割り切っているが、
 それでも無償に長次といたくなった。(なんか我が儘だな・・・)



「・・・いても楽しいことはないが?」

「全く構わないわ。」

 長次は一瞬キョトリとした後そう呟いたが、は気にしていないようだ。


「長次がいればいい。」


 そう言ってしまえば、長次は驚いた後にスッと貸し出しカードの整理に戻ってしまった。



 いいよ、ってことだよね?


 ありがとうと小さく呟いたは、邪魔をしない程度に長次の傍まで擦り寄った。





























「・・・あ、先輩が来てる。」

 それを、後ろで本の整理中だったきり丸が気づく。

「・・・本当だ。」

「今日約束があったって言ってましたよ。」

「え、そりゃ悪い事しちゃったかな・・・」


 不備が生じ、図書委員を総動員している原因を作ってしまった雷蔵は申し訳なさそうに呟く。


「けど、だからって帰っていいですよとも言えないですよね・・・」

 隣でボソリと呟く能勢に、怪士丸も頷く。


 中在家委員長を帰して今日中に事が終わるとも思えないし、
 そもそも後輩を思ってそんな選択はしないハズだ。
 例え中在家先輩の最も大切な人が関わっていても・・・



「・・・邪魔しないであげることが、今出来る精一杯の僕らのお詫びかな。」

「・・・ですね。」




























 そんな会話がなされているなんて露にも知らず、二人の間にはゆっくりとした時間が流れる。
 長次の筆を走らせる音だけしか聞こえないこの空間で、の頭が不意にカクンと揺れた。


 まあ、これだけ静かでおまけに暖かい陽気なんだから仕方ないよね。じゃ、ない!!!!

 自分でビックリしたは頭をフルフルと振る。が、どうも眠気は飛んでいかないらしい。


 また頭がカクリと揺れる。揺れる、揺れる、揺れる。



(ね、寝てしまう・・・!)

 いくら長次の隣にいていいからって、作業してる横で堂々と寝るのもどうなんだ!?
 は必死に頭を冴えさせようと努力するが、どうも上手くいかない。


 隣にいる長次からくる心地いい体温と香りに、既に昇天寸前。




 すると、不意に隣から腕が伸びてきたかと思えば、の肩を捉えて自分の方へと引き寄せてくる。



「・・・ちょ・・じ?」

 もううつらうつらと眠りの淵にいるは、
 さっきよりも強くなった長次の体温と香りに無意識に擦り寄る。




「すまないな。」


 なんで謝るの?今日の長次は謝ってばっかりだ。


「寝たいのならいいぞ。」


 ああ、自分に気を使ってると思ったのか。
 それならむしろ私が謝るべきなのに・・・
 そう思ってもはすでに喋る気力もなく、眠りの世界へ片足を突っ込んでいる。





「おやすみ、。」



 ああ、心がまたほっこりする

 心地いい長次の声を聞いて、はゆっくりと瞼を閉じた。

































「きり丸、作業しろよ!」

「だって能勢先輩!あんなにラブラブな二人見るの絶対珍しいですって!!」


 いつの間にか作業を放り出して本棚の影から二人を覗いているきり丸に能勢が注意をするが、
 きり丸は懲りずにまだその光景を凝視している。


「不破先輩、きり丸どうにかしてください!」

「・・・きり丸、見たい気持ちはわからなくもないが、そっとしておけ。」

「そっとしてますよ〜、見てるだけッスもん。」

「屁理屈言うな!後で怒られても知らないぞ!!」

 雷蔵も呆れながらきり丸の頭は軽く叩く。
 いって〜と小さく文句を言いながらきり丸は仕方なく担当の本に手を伸ばす。



 だが気になって目線だけそちらに向ければ、
 その空間だけが周りから切り離されたような暖かい雰囲気に、思わず目を細めた。




















 A scene in the Afternoon    


(それはまるで、幸せの象徴)
 





















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え、なんだこれ、最後きり丸でシメ?
悩みに悩んでこれかよ、
これかよぉぉぉぉぉおおおおおおお(自己嫌悪



 2009 10 14


やすし様に献上