「えぇぇぇ・・・どうしよう。」














 この目の前の光景は・・・嘘だ、嘘だと言ってくれ。


















「嘘じゃねーよ。」






「なっ・・・読心!?」


「ばーかちげーよ、お前声に出てる。」




「え、マジ?」




 私の隣で面白そうに笑っている男は、手に何個か小さな箱や紙袋を抱えている。












「桃も結構もらってるね・・・」




「まーなーテニス部ナメんなよ!」


 そう桃城の言っている事はごもっともだと思う。


 だが、それでも目の前の光景は異様だ。
 隣で笑っている桃だって手に抱えているのはせいぜい10個程だろう。
 もちろん中身はチョコレートだ。


 なんてったって今日は2月14日、バレンタインデーである。












 でも、目の前にいる少年・・・越前リョーマは、恐ろしいくらいの女子の数に囲まれている。
 20人!?いや、30人!?!?
 






「なんであんなにすごいの!?」


「越前はなー、そりゃモテるだろ。」




「だからなんで!?」




「お前さえ惚れるくらいだもんなー。」


「ぐふっ・・・」




 桃がバッサリと言い切った最もわかりやすい理由に、思わずアッパーを喰らったように鳩尾を押さえた。








が恋する日が来るなんて、誰も思ってねーよなー誰も思ってねーよ。」


「うっさい!乙女の純情をおもしろおかしく言うな!」


「そんなキャラじゃねーだろ?」




「・・・だから困ってるの、察して桃。」


「お、わりーわりーそうだったな。」


 恨めしそうに目の前の光景を見ているの頭を桃城がポンポンと叩いた。








 そうだ、桃がさっき言った理由は最もだ。
 なんでこんなにリョーマがモテるかって?そうよ、私でさえ惚れさせる力があるからだよ。
 この、絶対に恋なんてしそうにない、男友達ばっかりの私ですらリョーマに惚れてしまった。
 1年の時から仲のいい桃に紹介されて、気づいたら好きになってた。
 なんでかなんてわかるわけないでしょ!一応乙女の初恋なのよ!!!
 年下!?関係あるか!
 面食い!?いやいや、ルックスは出来ればもうちょい身長高い方が・・・
 ・・・って、それでも好きなんだけどな!悪いか畜生!!!!!!←イッツ開き直り




「・・・あーあ、私も血迷ったなー。」


「なにが?」


「こんな私が初恋相手に、バレンタインにチョコ渡そうとしてること。」


 は鞄とともに手に持っている小さな紙袋を揺らした。
 中身はまさかの、手作りチョコ。


「いいじゃねーか。バレンタインはお前みたいに恋に臆病な奴が勇気出せるイベントだろ?」


「わーなんかカッコイイこと言ってるけど、間違いがあるよ桃。
 恋に臆病ってなんだ、しかも何、私が!?一体どこをどう捉えればそうなるわけ!?!?」






「なんの話?」




「だから・・・ってぬぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!!!」


 勢いよく声がした方に顔を向けると、そこにはキョトンとしたリョーマがいた。
(くそっなんか可愛いぞ少年!!)






「リ、リョーマ!?」


「うん、何の話してんの先輩?」




「え、先輩って私!?」


「・・・先輩以外、誰かいます?」




「・・・・・・・・・桃?」




「桃先輩?どこにいるの?」




「へっ!?」






 リョーマに言われて改めて横を見ると、さっきまでそこで私の愚痴を聞いていた桃の姿がない。




「はっ!?アイツどこ行った!?」


「桃先輩になんか用?」


 ちょっと眉を顰めてリョーマが聞いてくるが、はその表情を見ることが出来ない。








(どっど、どうしよう!?桃め、気を利かせてどっか行ったつもりか!?)
(いやいや、むしろいてくれた方が何気なく渡せる気がしてたのに!)(桃め!!)(後で覚えてろ!!!)




 は恥ずかしさのあまり手作りチョコ入り紙袋を鞄もろとも後ろに隠した。






「・・・先輩、なんか隠した?」


「へっ!?!?」


 だが目ざとくその行為を見つけたリョーマがひょいっと後ろを見ようと首をのばしてくる。




「あーいや、これはそのですね!!」


 だが見つかったらどう言い訳したらいいかわからないので(言い訳・・・すんのかよ!!)
 も負けじと後ろへ下がる。










「・・・俺に見せてくれないの?」




「う、え・・・」






先輩?」






(な、な、なんだこいつ!)(上目遣いとか、乙女か!なんか可愛いよコラー!!!!)
(い、いかん・・・話題を変えよう!!!)
「リョーマ、そう言えばさっき女子に囲まれてたね!」




 言って後悔した。
 さっきまで見たくないのについつい見ては桃に愚痴っていた話題を、わざわざ自分から引き出すなんて。




「あー、見てたんスか?」


「あ、う・・・うん。」




「あんなの面倒くさいだけッスよ。」




 案の定ガツンときた。
 面倒くさい・・・その言葉が頭の中でリピートされる。








「駄目だよ面倒とか言っちゃ・・・乙女の純情だよ?」


「一方的で迷惑。」


 リョーマは言いたいことはズカズカと言ってくる。
 年上相手にもそうだが、それでもは良いことだと思っていた。
 が、今日ばかりはそれを呪う。






(一方的で迷惑か〜・・・私もそうされるってことか。)




「だから誰のも貰わなかったし。」


「あー、ね・・・全部突き返してたね。」






 それが、一番グサッとくる。
 そう、私がどうしても目がいってしまったのは、
 女子が一生懸命渡そうとしているチョコを、リョーマは全て受け取らなかったからだ。
 もしかしたら何人かは・・・と思って半ばハラハラしながら見ていたが、その気配もなし。






「あれは酷いよリョーマ。」


「期待持たせるのも、酷いでしょ?」


「・・・そう、だね。」




 自分も、期待するくらいなら突き返される方がいいのかもしれない。
 でも、そう思っても、あの光景を見ると渡す勇気がなくなる。




(桃の言う通りだ、私、恋に臆病らしいね・・・)




「だからさ。」


「うん?」










先輩のは貰っとくよ。」




 ヒョイっ。




















「・・・・・・はいっ!?!?」




 何が起きたのか、理解するのに数秒かかった。




 いつの間にか、リョーマの手には1つの小さな紙袋があった。
 急いで自分の両手を見てみると、鞄しかない。






「私のチョコ・・・!?」




「あ、やっぱりこれチョコなんだ。」




「うわっ・・・」


 やっぱりリョーマの手にあるのは、先ほどまで自分が持っていた手作りチョコで。
 焦ったがその袋を取り上げようとするが、リョーマは器用にそれを交わす。






「ちょっ・・・リョーマ!?」


「なんで、返してほしいの?」


「い、いや・・・あの、その・・・」


「まさか、桃先輩にあげる予定とか言うんじゃないよね?」


 リョーマの動きが止まった。
 だが、そのまま紙袋を取ることが何故か出来ず、恐る恐るリョーマの顔を見ると、眉を顰めている。




(こ、ここで冗談言えない・・・)


 本能でそう思ってしまったは、


「・・・リョーマに、だよ。」


 と言ってしまった。




 するとリョーマはうれしそうに笑った。
 そりゃもう、とびっきりという言葉を飾ってもいいくらい。




「じゃぁ部活行ってきまーす。」


 リョーマはそう言ってを置いて歩き出した。




「え、リョーマ!?」


「まだ何か用、先輩?」


 だがに呼び止められ振り返った。




「え、や・・・あの、本当にそれ貰うの?」








 が遠慮がちに聞くと、リョーマは今度は悪戯っぽく不適に笑い、








「うん。だから先輩、期待してね。」








 そうすっぱりと言い捨てた。


















 それを期に再び歩いて行ってしまったリョーマを追いかけることもせず、
 はただその場に突っ立って顔を真っ赤にしていた。






















 乙女の臆病純情    



(期待、するよ?後悔すんなよ!!!)
























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ついにリョーマ夢書いてしまった!
リョーマ好きです、多分、一番?(え。






 2009 01 24